- 2007年08月11日(土) 見るほどに山々は羽毛ある蛇のごとき雷雲を空に向かって産み落とし、渦巻く暗雲は逆巻いて天に至ると、たちまち稲光をひらめかせて咆吼した。長い干天はすでに終わり、驟雨の先触れたる冷気を帯びた風が吹き付けた。 祭壇の下の人々は、これら明らかな徴にだれ一人として声もなかった。壇上には巫氏にして祈祷者たる白衣の男が微動だにせず立っていて、ざんばらにした髪を風になびかせていた。まさに目の前でこれほどの霊力を見せつけられては、誰しもこの男が人であるのかあるいはただそのように装った神の一柱であるのかしかとは信じかねた。 男がゆっくりと踵を返し、壇を下るころ、頭上を覆った雲から涼しい雨が降り始めた。男はなおもゆっくりと歩みを進め、王の前に立ち止まった。男の相貌は青ざめて、その目はなおも暗かった。王は怖じはしなかった。 「よく命を果たした。慈雨ぞ、ひび割れた国土も癒されよう」 男は頭をのけぞらして笑い、と見る間に王の前に膝をついた。人々はいっそうしんとして、雨音だけが囂々と鳴り渡った。男は両手をつぼませて王の前にかかげた。そのわずかなくぼみには瞬く間に雨が満ちた。 「取られませい」 男の声は王にだけ届いた。王は見下ろし、男は見上げ。ここに二対の眼差しが出会った。恐るべき出合いであった。 「取られませい、天が下のすべての王冠を差し上げまする」 その言葉に引き寄せられるよう王は手をさしだしかけてわずかに震え、だが次の瞬間には男の掌の雨滴をたしかにつかんだ。 -
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