終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2007年06月26日(火)

恐山への旅、前日の項から続く。

恐山菩提寺

下北半島では、「ひとは死ねばお山に行く」という。
つづら折りの山道から湖岸に出た瞬間に、彼岸に迷い込んだように思った。
流れ込む強酸の水でウグイなどごく少数の生き物しか許さない宇曽利湖は
薄青く明るく澄んで、青黒い山々は重々しく四方を閉ざしている。
風雪に苦しみ凶作に苦しんだ人々が死後に得たいと願ったのはこれか。
この静寂と平和か。

湖岸の道を走り、恐山菩提寺へ。
あまり知られていないが、ここは円仁大師の開基による曹洞宗の寺である。
よくいわれる口寄せのイタコは普段は寺にはいない。
祭りの際に津軽半島あたりから集うのだ。
そして祭りもないこの日、夕刻ということもあって境内には誰もいない。


鎌倉・室町を思わせる無彩色の総門をくぐると、白い石畳の道。
灰色の瓦と黒ずんだ灰色の門や堂。


おともなく人影もなく、夕暮れは落ちて、
ただ、たたずむ地蔵の足元には色鮮やかな風車がカラカラと回る。

宿坊に荷物を置いて、本尊の延命地蔵に参る。
夕食がせまっていたのでこの日はここまで。
坊の温泉で湯口に近づいたら、硫黄の蒸気を吸ってうっかり死にかける。
息ができない。ぜ、ぜんそくってこんな感じなんだ…。

翌日、未明。
地蔵堂の脇の道から「地獄」へ向かう。


有毒な硫黄の蒸気が立ちこめる、尖った岩場の無間地獄。
こうした風景の中を歩いたことがあるような気がする。
夢の中で。それとも想念のうちに。


積まれた石の並ぶ賽の河原。
亡き子を思って石を積んでも、やがては崩れる。
それでも積まねばならぬのか。それがひとか。ひとの業か。


赤色の濃い血の池地獄。
その恐ろしい色の水面に中央に鎮座まします地蔵の影が映っていた。
慈悲を。どうか慈悲。この世の苦が尽きないなら、せめて慈悲を。

ところどころ、奇形の花のように、挿された風車が回る。
石のひとつひとつがここでは祈りだ。その間に小さな地蔵が蹲る。

地獄を抜ければ宇曽利湖畔の白砂の浄土の浜。


一列に手向けられた花は誰のためのものか。
奇景よりも自然の美よりもそこに地獄と極楽を見た人の心を思う。
振り返れば夜が明けるところだった。





朝食を頂いてから、山を出る。
ヒバの大森林を縫う林道を経て本州最北端、大間崎へ。
途中で霧にあう。案の定、行き着く頃には寒いはなんも見えへんわ。
諦めて南下し佐井村へ。着く頃には日が照っている。変わりやすい天気だ。
ここで観光船に乗り、奇岩で知られる仏ケ浦へ。


真昼。海上にそそり立つ岩々はやはりこの世の外のようだ。

誤算。停泊時間が20分しかない。
ロクに写真とらんうちに出航。ギャア。
仕方がないので陸から再訪することにして、とりあえず港で昼食。
一服してから出発。途中で願掛け岩に立ち寄る。
なんと、おりられるではないか!…おりる。


この岩場は方形の柱をたばねてねじ曲げたりブチ割ったりしたような
そんな景色からなっている。上りやすくて助かる。
と同時にこれだけの石の柱を飴のように扱う大地の力に感嘆する。


どんな手だろう。どんな。


しかもその手は、この可憐な百合をも形作った。
スカシユリはそのてのひらをひろげて真昼の陽光を受けている。


群れて揺れる花々。
ここはどこだ。楽園か。なるほどこの世のようではない。
岩の上に腰掛けてしばし休む。真昼の日差しが射すようで心地いい。
私は夏に属する。

のんびりしてたら日が傾きだした。
あわてて車に戻る。アヂー…ぃ。

仏ケ浦に戻るとすでに夕刻。
つーか駐車場からの途中の降り道が厳しいんですけど。


仏ケ浦
傾ぎつつある太陽の日差しの赤みを帯びた光の美しさ。
瓢箪から駒?


これは声か。では誰の声だ。遠く彼方から響く。


孤独な声だ。どこまでも透き通って、鋭く、しかもこだましない。


わたしは聞こうと耳を澄ませるが、その声は私の耳を打たない。


潮騒だ。潮騒ばかりだ。


肩を寄せ合い、巨人たちは無限に囁き続ける。


そうこうするうちにはや日暮れだ。一日のなんと短いことだろう。


真っ暗になる前にと駐車場に向かう。
赤光が背中から射して、木の間を縫って落ちていた。
あれは誰の言葉だったのか。引き留めるように。だが振り返っても何もなく。


道の途中で北限のサルに遭遇しつつ脇野沢へ。
脇野沢で一泊し、未明に青森方面へ。
午前中に三内丸山遺跡に立ち寄る。
海がすぐそばにあった縄文の1500年間、そこは都だった。
それから4000年ほど忘れられた。そしていまあらわれている。
人の歴史は降り積み、苦は絶えず、ただ生きて連なってきたのだと思う。

復元家屋、土偶土器など見て回り、空港へ。
正午過ぎの飛行機で羽田へ向かう。
以上。


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