終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2006年09月26日(火)



 レース後のエンジンの調整には細心の注意と、繊細な指先の感覚を必要とする。マルチェロはそのどちらも持ち合わせていた。かれにとってエンジンとは気むずかしいが豊かに語りかけてくる言葉を持つ相手だった。
 スペイン西部でのレースを終えたその夕べはひどく暑くて、マルチェロはようやくマシンの調整を終えたときには作業用のつなぎから上半身を抜いていた。むきだしの胸や腹は汗に濡れ、後ろで無造作にくくった黒髪はひとすじふたすじこぼれて頬に流れた。
「ここにいたのか、あんた」
 かれの目にはどんな女より美しく見える機体を眺めていた背に、ふいに呼びかけられてマルチェロは振り返った。立っているのは銀髪のチャンピオンだ。レースの後は表彰台の真ん中でシャンパン・ファイトに臨み、ファンにおざなりに流し目をくれて体の線もあらわなレースクイーンと消えるのが恒例のこの天才ライダーが、この時刻に愛機を尋ねるのは珍しいことだった。それはかれに付き従って3つのチームを渡り歩いてきたマルチェロにとってもそうだった。そしてそれが良い兆しであった試しがない。
「返事ぐらいしろよ、あんた、俺のメカニックだろ」
「何しに来た」
「あんたに会いに」
 かれより頭半分背が低く、モンスター・マシンを自在に扱うとは思えないほど細い手が伸びてきて、マルチェロの頬に触れた。
「訂正するぜ。あんたを抱きに、だ」
「よせ」
「あんたは俺の親父への借りを返すために俺のメカニックになった。そして俺はあんたの望み通り、3シーズン続けてチャンプになった。このシーズンも勝つさ。そしたら親父の記録は塗り替わる。何が不満だ?」
 マルチェロは押し黙った。常にはグリップを握る細い指がマルチェロの胸を滑る。汗の流れる胸と腹を撫でて、背を屈めた。マルチェロは黙って唇を噛みしめ拳を強く握って、形良い唇が己が胸の端に座を占める薄色の乳輪を吸うのに耐えた。
「下も脱げよ、マルチェロ。たっぷり泣かせてやるから」
 さんざんに胸を吸いねぶってようやく顔を上げ、アンジェロが言った。勝者のさめやらぬ熱と狂気を帯びたその薄青い目は淫らに強く光っていて、マルチェロは息を乱しながら、ただ黙って従うよりなかった。



 純粋で凶暴な少年に、体格的には勝る年上の男が暴力的に支配されるってロマンだよなあ。マルチェロ31歳、アンジェロ(ククール)18歳。アンジェロ(ククール)攻め。そういやアンジェロはじめて書いた。


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