- 2006年09月25日(月) モンスター・マシンのエグゾーストはコースに満ちる。原色の派手なマシンたちがグリップを離れてコースに出て行くのを見送るメカニックたちのまなざしはどこか悲しげだ。なぜなら彼らの手はもうマシンに届かない。ミリ単位の調整に費やしうる時間は終わって、金と名誉とライダーの命をまととした試練の時刻が訪れたのだ。その厳粛な認識はいつも祈りに似ている。 そのときマルチェロが、いつもよりほんの一瞬ながく銀のヘルメットを見送っていたのを見とがめえた者はいなかった。だから最終ラップのダウンヒルストレートにおいて、激しく首位を競う2台のマシンのうち1台がほんのわずかバランスを崩したようにハンドルを握り直したことも、さらには続くセカンドアンダーブリッジで鋭く激突したことも、はじかれた銀と白の流線型のマシンがライダーもろともに鋭く直線を描いてコースサイドのポッドに突き刺さったこととさえ、合わせて考えるものはいなかった。そして間もなく走り出したタービュランスの文字を描いた白と赤の車両が不吉なサイレンを悲鳴のように上げ続けていたこととも、やがて伝わった若きチャンピオンの訃報にも不審の念を抱くものもいなかった。 にも関わらずそれらすべては一本の糸につながっていた。一本のネジにと言ったほうがよいかもしれない。あるいはそのわずかな螺旋に。時速250キロの中でなら、死を呼ぶことはかほどに容易なのだった。この殺人、この死がけっして裁かれないだろうことをマルチェロは知っていた。めちゃめちゃになってしまったマシンからは誰一人この犯罪を暴くことはできないだろうし、これは確かに不運だがよくある事故なのだ。銀髪のチャンピオンはこのシーズン、最初のいくつかのプライズはとったがそのあとはずるずると後退を続けていたし、もう後はなかったのだから、危険を見越しても勝負に出ることは十分に考えられた。誰もマルチェロを責めることはない。 そうだ、そして1年が過ぎチームは解散し、マルチェロはもはや罪があばかれることはないということを確信していた。にもかかわらずかれは忘れていたのだ。誰がそれを知らなくとも、かれは知っている。そして夢にもそれを忘れることがない。グリッドを立ち去る銀と白のマシンは夢の中で数知れずあらわれては、引き留めぬ手の下をすりぬけてコースに出て行った。 -
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