終わらざる日々...太郎飴

 

 

葬列:1 - 2006年08月11日(金)

 法王ククール暗殺の知らせは、エイトのもとにも届いた。ともに世界を経巡った日々はすでに遠く、壮年となった仲間との交流も疎となっていたが、心の奥底の紐帯は少しも薄まっていない彼らであった。
「行かれますのね」
 急を伝える手紙を読み終え、顔を上げたエイトに、ミーティアが言った。白蝶貝のまどかな清さを帯びた額の下の、黒曜石の瞳が気遣わしげに陰っている。エイトは頷いた。
「明日の朝、サヴェッラに」
 エイトは言って背をかがめ、美しい妻の目の上に口づけを落とした。ミーティアは愛らしい皺を目元にのせて、しずかに頷いた。

 サヴェッラは喪に沈んでいた。この十年、その町の光輝であり主人であった男の死を迎えるにふさわしく。エイトは高い館の窓辺に立って、城壁に垂れる暗い喪章に視線を向けた。同じ風景を見たことがある、十年前に執り行われた先代法王ニノの葬儀のとき、またその更に二十年ほど前にも。そのとき傍らにあった友の葬儀をも見ることになるとは思ってもいなかったが。
 すでに、町と同じ喪の色の衣に身を包んだ法王代理から、一通りの説明は受けていた。法王ククールが剣でもって殺されたこと、それが主日の一般礼拝の日にあったこと、そのとき正餐にあずかっていたはずのフードの男の行方が杳として知れないこと。そしてその男が緑の目をしていたこと。
「どうぞお入りくださいませ、陛下」
 導かれてエイトは顔を上げ、落ち着いた足取りで法王居室に入った。そこは天井の高い、壁面の一方をガラス細工で飾られた美しい部屋で、中央には暗い布に覆われた段があってその上に死者が横たわっていた。
 宝冠を頭上に置き、式服に意義をただした死者は胸の上に指を組まされ、背を積んだクッションに支えられていた。エイトは黙って死んだ友人のもとに歩み寄った。端正な顔は青白く透き通り、生気はかすかも感じられない。
 かれはいくつだったっけ、とエイトはぼんやり考える。僕よりも2つ年上だから、五十と、六歳のはずだ。青年時代の若々しさはすでになく、だが重ねた歳月が磨いたような人間の端正な美しさがある。最後に会ったのはもう何年も前のことだ。この友人が何を思い、どのように生きてきたのか、いつかゆっくりと話し合おうと言い合いながら、ついぞその機会を得なかった。
 死者の顔には苦悶の跡はなく、むしろ荘厳な死の静謐さが、歳月と強さの上にベールを広げて遠いものにしている。エイトは泣かなかった。ただ手を伸ばして組んだ手に重ね、その冷たさを感じた。そしてまたその指の上に、記憶にあるひとつの指輪がはめられていることを。


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