- 2006年07月12日(水) きみは問わなかっただろうか、これが勝利なのかと。 これが勝利なら、そうだ、ずいぶんと落ち着かないものなのだと。 勝利と敗北を分ける境界線がどこにあるものなのか、きみは知らない。ただ勝利はかくも唐突にきて、そして君を押し包んでいる。きみは。 そうだ、きみは途方に暮れている。きみは胸にせりあがってきたなにごとかに息もできないままでいる。しかも立ちつくしていることは許されない。きみは本塁近くに並んで敵方に頭を下げる。かれらは泣いている。そうだ、かれらは負けたのだから泣くだろう。では勝つとは泣かないことか。 きみは本塁近くに並んでスコアボードのほうを向き、校歌をうたう。きみは自分の声がうわずっているのを聞く。きみは頭をひとつ、深く下げて、それから仲間とともに三塁側の応援席に駆けていく。疲れ切っているはずの体が少しも重くなく、誰彼ない笑い声が響いている。きみは仲間を整列させ、応援席の人々に向かって頭を下げる。 そして初めてきみは気づくのだ。きみは泣いている。きみは泣いていた。この喜びをまえにして、どうして泣く以外のてだてがあるだろう。そうだ、胸を破ってしまわないためには。きみは泣く。きみは声をあげて泣く。仲間たちがきみの肩を支え、背を叩いていく。きみはかけられる声に応えることさえできない。勝利の喜びはきみを締め上げるほどに強い。 きみは。ああきみは、ほどなく敗北をも知るだろう。泣きながら笑顔の敵方を見るだろう。だが誰も、そうだ、誰も、きみの味わった喜びを知ることはない。それは確かだ。きみの喜び、きみの勝利は神聖なものだった。 そうだ、ほかのすべての勝利と同じく。敗北と同じく。そしてきみよ、立ち去るがいい。もう多くの子供たちが立ち去った。そして先に行った。 -
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