- 2006年06月06日(火) 扉はいつか開くだろうと思っていた。それとも知っていた。だからほんとうに背後で扉が開く音がしたこのときも、マルチェロは驚きはしなかった。抱いた感慨があるとすれば、それはただこの先もう二度と扉は開かないのだというそのことで、それはむしろ安堵に似ていた。 「……」 聞こえた声は震えを帯びていた。それもまた、そうであろうとマルチェロが思っていた通りであった。そしてその声が胸の内にわずかに小さな波紋を広げたことについてもそうであった。マルチェロはそれを静かに圧殺した。難しくなどなかった。すべてはとうに、とうに予期し、とうに処遇を定めたことであった。迷いはすべて迷われ、そして突き詰められて定まった。いまさらいかな感情、いかな現実が動かせよう。 そして扉は閉じた。それもまたマルチェロを動揺させることはなかった。マルチェロは視線を窓の外に投げた。高い窓は明るい真昼の光を投げている。最前と変わったところは少しもない。今日が昨日に似るごとく、千年が先の千年に似るごとく。マルチェロはかすかに笑った。そしてそのことに驚いた。こんなことは予期されていなかったのだ、こんな憐憫は。 だがそれは誰のためのものだ。今し方訪れ、また去っていった弟のためか? 否、否。かれはそれでいいのだ。かれは広い世界を持ち、なすべき勤めを持ち、癒えぬ傷を抱いたままで生きていくだけの強さがある。だが己は。沈黙し、閉じて、永遠に語るべくを封じることを決めた己は。そうだ、喉を潰さなければ語り出してしまうであろうと知っていたその魂は。 マルチェロは膝をつき、頭を垂れた。その黒髪に日差しは落ちて、遠い日に置かれた老いた手を思わせる温もりを感じさせた。 逆婆。もとい逆バー。6日16時のかた、ご返信ありがとうございました。 そのうちもうちょっとまともに仕上げる気です。気ですが。 マディ−ナの黒い旗は掲げられた。それは、この砂の大地に生きるいかなる部族にも抗う権利のない、戦いの招集であった。北方の帝国が再び軍を挙げたのだ。族長はマーリドを頭に熟練の騎手二十人を送り出した。 旅立ちにあたってマーリドは静かに宿営地を見渡した。トリルを歌う女たち、泣き暮れる老婆たち、老いたそれとも幼いものたち。その姿は見るうちに薄れるようであった。天幕や山羊、駱駝たちさえ、薄れて消えてゆくようであった。その向こうに静かに砂を走らせる砂漠のみあるようであった。 マーリドはわずかに頭を傾げた。そしてすべてを肯った。彼は死ぬのだ。 -
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