- 2006年06月05日(月) 「あなたの右手が罪を犯すというなら、 それを切り落としなさい」――新約聖書 ククールは房を出た。目にはまだ、窓辺にたたずんだまま振り返りもせず答えも返さなかった男の背中が残っている。もとより何かを望んでこの物寂びた修道院を訪れたわけではない。その男が侮蔑であれ和解であれなんらかの言葉をよこすだろうとさえ思ってはいなかった。だがそれでも、事実を前にしてみて傷ついたのは本当だ。 傷ついた。そうだ、俺は傷ついた。ククールは苦く笑う。この胸は傷ついた。傷ついて血を流している。自分自身に嘘をついても始まらない。そう、求めていたのだ、侮蔑でも和解でもいいからなにか言葉を、それとも眼差しを。俺はそこから無限のものをくみ取ることができただろうに。 ならば、と胸のうちに囁くものがある。ならば襟首を捕まえて引き寄せ、顔につばでも吐きかけてやればよかったではないか。それともひざまずいて哀れみを乞うてみせるか。あるいは昔そうしたように泣いて憤って悪態をついてみせるか。そうすれば少なくとも何かはあっただろう。そうしたことを何一つせず、ただ一言、そうだ、たった一言かけてそれで返答がなかったといってこれほど傷つくのは筋違いではないのか。 「うるさい」 思わず口をついた呟きに、先を行く若い僧侶が怪訝な顔で振り返った。利発そうな少年は、かれを門からここまで導いてきたのだった。そしていまは門の方へと連れ帰ろうとしている。 「どうかされましたか、猊下」 「いいや、どうも」 「先ほどからお顔の色がよろしくないようですが、あの方と何か」 「話をしてきただけさ、気にするな」 若い僧侶はいっそう怪訝な顔をして言った。 「しかし」 「なんだ」 「あの方は、沈黙の行を守っておいでです。ええ、ご自分で喉をお潰しなされて」 ククールは凝然として沈黙した。振り返らなかった男の後ろ姿がありありと目の前にあった。どこにも開かぬと自ら定めた扉にも似た背を。そうだ、そのうしろにあるもの一切を封印し閉じて。 日記でごめんなさい。4日20時に拍手くださった方に捧げます。 この逆バーも作るかな…。 最近、スイッチが「オフ」だ。 どうもいけないどうもいけない。こんなんじゃいけない。 足もとを砂が走ってゆく。嵐が来る。マーリドは顔を上げる。遙か彼方に雲間が切れて、死につつある太陽が緋色の光を投げてよこした。それは雲を染め地を染め砂を染めた。赤くまた赤く。血が流されるであろうと知った。 -
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