終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2006年04月30日(日)

「悪竜グラウルングを抱いて」

 竜が眠っている、とぐろを巻いた巨きな竜が。
 深い深い地の底、熱と障気のうずまくあたりに。

 目覚めれば世界を滅ぼす息吹は
 今はその口元でかすかに燃えるちいさな種火だ。
 見る者すべに狂気を運ぶ魔法の瞳は
 いまは無害に閉じられ休んでいる。

 私は竜の傍らに寄り添い、恐るべき獣の巨大な頭を抱いた。
 ふいごのごとき心臓は確かにその体の奥底で脈打ち、
 鎧のごとき鱗は呼吸のごとに静かに上下している。


 私は言った。


 おやすみ、世界の滅びよ。いまは眠っておいで。
 おやすみ、世界の終わりよ。まだおまえの時ではない。

 そして竜よ、もしお前が望むなら、私の夢の中で小さな子犬におなり。
 ふたりして明るい日差しに輝きわたる緑の野を駆けよう。
 空を見つめる眼差しのごとき青い湖をゆき、
 天使の翼の峰のごとき白い山々を感嘆とともに仰ごう。

 ああ、それらすべての滅び、それらすべての不幸であるおまえは、
 おまえはそれらをまことに知ることがない。
 なぜならおまえの心はねじけていて、おまえの喉は血に渇いている。
 おまえのかぎ爪のはえた肢は愛撫のためには作られておらず、
 おまえの吐息は生あるものの毒として吐かれる。
 そのようにおまえは造られた。

 だがまだ世界の命数の尽きぬ今は、
 今ならば、夢のうちに愛することはできるだろう。
 世界を愛し、その愛撫を享けることができるだろう。
 さあ竜よ、ともにゆこう、ともに夢見よう。



 そして私は目を閉じ、快く愛すべき想念を編み始めた。
 やがて広がった夢のうちに、白い子犬はわたしのあとを追いかけ、
 私たちは連れだって、長い幸福な散歩に出て行った。




悪竜グラウルンクに限らず、悪のために造られたものが好きだ。
自由意志によって悪を選び取りながらも、絶えず善に憧れるものが好きだ。
そうした齟齬、そうした不可避的な不幸に惹かれる。
自ら選び取った邪悪の中に進んでさらに深く歩み入りながらも、
ひととき夢を望まずにはいられないゴルサウアとかさ(笑)

夢の中でエルダアルの形をとり、なつこい子犬のグラウルングとともに
ベレリアンドを駆けるサウロンは誰に出会うのか。
いっそ誰にも出会わないといい。
誰にも会わず何も与えられないことによって、一切を深く愛するといい。
そして自分がそれら一切を憎まざるをえないこと、憎むことを選んだことに
深く激しく絶望するといい。

でもちびっこケレブリンボールに会って、
「この犬ちょうだい」と大泣きされるといい。
困っておろおろするといい。


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