終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2006年02月14日(火)

長さ30メートルの同人誌を作ろうかな、と思っている。
そこのあなた、見間違いではない。


長さ30メートルの同人誌だ。


問題はこれをどういう形にするかということだ。
候補は、
1:折りたたんで勧進帳
2:巻いて巻いて巻物
3:トイレットペーパー

はい、そこのあなた、見間違いではない。


トイレットペーパーだ。


印刷してもらえるところはあるので、不可能ではない。
毎日、用を足すときにちょっとだけ読む。読んだら使う。
読み終わるまでに1カ月ばかりかかるだろう。



コレを「下半身丸出しで読む物語」と名づけたい。



……やめといたほうがいいかな? どう?


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『第三の男』:

「イタリアでは、ボルジア家30年の圧政下に、ミケランジェロ、ダビンチ、ルネサンスを生んだ。スイス500年の同胞愛と平和が何を生んだ?」
 相手の沈黙を見て、男はニヤリと笑って続けた。
「ハト時計さ」


 銀幕のやりとりは、マルチェロを楽しませない。ハリー・ライムはまっとう過ぎる。少なくとも彼はそう考える。そんなあたりまえのことをいちいち口に出してどうしようというのだ。わかるものは言われる先からわかっているし、わからないものは永遠にわかりはしない。言葉というのはそういうものだ。
 物語が進むほどにマルチェロは退屈していた。だからかえって、肩を叩いた男を見上げてほっとしたくらいだ。それは背の高い、傲慢そうな顎と頬骨をしている。頑強で肩幅の広い身体は三十代半ばといっても通るだろうが、実際は四十代半ば。右手の殺した人間の数を左手が知らないというタイプの軽薄な酷薄さが消えない煙草の煙のように絶えず周辺を漂っている。
「遅かったな、ベネディクト」
「早すぎる男は嫌いだろう」
 マルチェロは立ち上がった。銀幕に影が映る。ハリー・ライムはまだなにか話しており、その声は薄汚い天井から聞こえているが、その顔の真ん中には切り取ったようにマルチェロの影がある。周辺からの非難がましいしっしという声と視線の中で、ベネディクトがマルチェロの腕を取った。
「銀幕にキスシーンの影でも落としてやるか?」
「それより私の靴でも舐めていろ」
 長身のマルチェロよりなお一回り大きなベネディクトが体をゆすって笑った。マルチェロはそのみぞおちに一つ拳をくれると、出口へ向けて歩き出した。映写機のレンズは真っ向から顔に落ち、ひどく眩しかった。背後で影はなお銀幕に落ちているだろう。それは昔の映画の中の、とっくに過ぎ去った俳優たちの動きとなんら変わりなく。そしてまた現実も、なにひとつ影や夢と変わらないのだ。

 並木のプラタナスは冬枯れて、無様なまだらの模様をさらしている。セーヌの河辺は身を切るようなミストラルが焼栗の皮を吹き飛ばしていく。ベネディクトは耳元でずっと最近の死人の数を数えている。移民たちのギャングの名前をうれしそうに。マルチェロは黙って話させ、その半分ばかりは聞いていない。だがやがて路地を曲がったところ、薄汚れたアパルトマンの鍵は開く。
 その寒々とした部屋を、マルチェロはよく知っている。幼い頃にそこで過ごした部屋だ。父親の顔は覚えていない。どこかの貴族か、でなければ資産家だったらしい。母は場末の酒場で父親に拾われ、しばらく裕福な生活を送ったが、父が新たな愛人を作るにあたって捨てられた。あとはお定まりの通りだ。養育費は若い男と酒に消えた。すさんだ生活が病となってとりつき、ぼろぼろになった肝臓が仕上げをして墓穴が彼女を飲み込んだ。残されたマルチェロは無一物で、この部屋からすべてを始めるしかなかった。ベネディクトは隣家の末息子で、悪事と情事の最初の手ほどきから、長じては殺人も強盗も片棒をかついでいる。
 もっともマルチェロに比べれば頭の切れ具合も劣るから、今では小さな組織の一部を預けて、対等な相棒というよりも子飼いのような扱いにしている。それでベネディクトも満足しているが、今でもたまに身体はつなぐ。その理由は簡単だ。身体の相性がいいし、慣れた相手だけに不安もない。刺激もそれほどないが。

 ベネディクトはキスを右耳から始める。蛇のように舌をのばして溝をたどり、峰をたどられれば腰の辺りがじんわり熱くなる。服の上から尻の割れ目をたどる指は布地などものともせず、ただただ強く淫靡だ。死んだばかりの死体を動かしたときに、こめかみの銃創から勢いよく血が噴出したような妙な感動を覚える。
「おい、待て。服を脱ぐ」
「そのままでいいさ」
「忘れるな、ベネディクト。私が待てと言ったらおまえは待つんだ」
 押しのける素振りひとつ見せたわけではないが、後ろからとりついていたベネディクトはそれだけで引いた。マルチェロは寝台に歩み寄り、振り返ってベネディクトを見た。上気した頬は赤く、髪は乱れている。
 上着から袖を抜いて、窓近くの黄緑色の椅子に投げる。シャツのボタンに手をかけて、上から一つずつ外していくあいだ、ベネディクトの視線はこちらを見たまま離れなかった。
「おい」
 マルチェロは手を伸ばす。
「カフスを」
 ベネディクトは黙ってオニクスのカフスボタンを外し、サイドテーブルに置いた。
「俺は犬か?」
「しつけの悪い犬だな」
「お手も伏せも聞くぜ」
「犬取りが野犬を殺すように殺してやろうか」
「ワイヤーで首を絞めて?」
「そうだ、無様に四肢を引きつらせろ」
「いいぜ。だが明日にしろ。今夜は忙しい」
「犬の用事か」
「ならおまえは雌犬だ。足を開けよ、マルチェロ。穴も竿も舐めてやる」
「おまえがまだ生きているのは」
 マルチェロはのしかかるベネディクトの首を抱き寄せながら笑う。シャツもズボンも下着も脱ぎ捨てた姿で。
「私がたまたま、おまえを殺そうと思わなかったからだな」
 内股を撫でる手の熱さ。この男と抱き合うときはいつもマルチェロは犬とまぐわう犬の気分になる。四つ這いになり、濡らした指で尻の穴をくじられるのは奇妙な気分だ。そうされながら前を舐められるのはもっと奇妙な気分だ。耳に届くのはぬれたみだらな音ばかりで、身体の奥からはねじれるような劣情がわいてくる。激しく尻を突き上げられ、あられもない喘ぎ声を吐きながら、これは犬の劣情だろうと考えるのは頭の片隅だ。

 たとえばこの枕の下の銃を取り出して、ベネディクトの額に押し付けたとして、少しもためらわず私は引き金を引けるだろう。頭に穴をあけた死体の周囲に飛び散った脳漿の色や頭蓋骨の細かな破片や灰色の脳髄を見るだろう。服を着て部屋を立ち去り、ランチには子羊を食べるだろう。マルチェロは笑わない。そんなことはあまりにもあたりまえのことだ。だがふと考えた。つまりこういうことを。もしそう言ったら、あのガキ、ククールという少年は驚くに違いない。
 マルチェロは不思議には思わなかった。こんな場面でその銀の髪の子供を思い出したことを不思議には思わなかった。悪逆の淵にある人間ほど切実に神聖と美を求めるというのはわかりきったことだ。神は言葉遊びの詩人のように、矛盾が好きに違いない。でなければルネサンスのあれほどの美、あれほどの崇高さが、堕落と殺戮の街から生み出されるはずがない。あのころティベルの川のほとりには、毎朝殺された男女が浮いていた。そして平和と愛があれほど貧相なわけがない。あのくだらないハト時計。だからマルチェロは不思議に思わなかった。



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