終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2006年02月01日(水)

 島には海からの風が吹いている、止むことのない強い風が。マルチェロは海に面した北の斜面に立っていた。そこは短い草の茂る草原で、はるか下方の陸の終わるところからは、ぎらつく銀色の板として海が始まっている。
「おまえがここに来て、もう何年になるかの」
 低い声は傍らからした。島の隠者はぼろの衣を風になびかせて、黒い石の上に座っている。マルチェロは目を閉じてわずかに笑った。
「ちょうど一年、それを思っていたところです」
 隠者はうなずいた。わけしり顔でもなくただ、子供のようにせわしく。
「さようさよう。そうであった。一年よな。もうそれだけの時がめぐった。この島では短くはないのう、一年は」
「まことに」
 マルチェロも囁く。本当に、長い長い一年だった。ただ生き延びる、それだけのことがこれほど困難な地を知らなかった。冬の厳しい寒さ、雪と風は吼えたけり、殺意そのものとして襲い掛かってきた。春がやがてくるということさえ信じがたい深い冬の日々のあと、気のせいかと思うほどに、ほんのわずかずつ、春はやってくる。そしてようやく、これが気候の気まぐれなどではなく、間違いない春だと気づいた瞬間の、言葉にならぬ喜び。
「それで、マルチェロよ。どうじゃ、願いはかなったか。おまえが聞きたいと願っていた声は聞こえたのか」
「いいえ。私の神は沈黙しています。その静寂は深く、私の罪はあまりにも重い。許しはありません。もはやすべての手立ては尽きたというのに」
「こらえよ。おまえは度を越して強すぎる。絶望してはならぬ」
「あるいは絶望して悪鬼と化すよりほかないのかもしれませぬ。私のなしたことがこの世の果てまでも許されぬと」
 隠者は不機嫌に遠くになにかを放り投げるようなしぐさをする。それからあたりに生えていた短い草をちぎって、前歯で噛んで吐き出す。
「神を見くびるな。おまえのような阿呆など、百人ばかりまとめて許される方じゃ。いこじな子供になるのは勝手じゃが、それこそ愚かだ」
 マルチェロは笑った。確かにその通りだった。笑って、隠者の横に並んで腰を下ろす。耳もとを風が吹きぬけてゆく音だけが残った。
「みろ、鳥が飛んでおる」
 隠者が頭上を仰いだ。つられて見上げると、長い翼の海鳥が、はるかな高みを飛んでいる。神に支えられて飛んで行く。なるほど、その方に不可能事などないと見えた。


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