- 2006年01月30日(月) あれは何だっけ。アシモフのロボットシリーズだ。 中年のさえない主婦の家に、試作品の召使ロボットがやってくる。亭主はロボット会社の技術者で、秘密裏に家庭内でのテストをするためだ。彼女はおどおどし、戸惑う。なぜってそのロボットはえらい美男だ。 ロボットは彼女の居心地はいいがさえない家を変えていく。デザインを、家具を、また彼女の服装や髪型を。適切な助言と技術で彼女は羽化する蝶のように美しく自信に満ちていく。ロボットは礼儀正しくまた親切だ。彼女もロボットを親しく思う。だが定められた期間の最後の夜、ロボットは彼女に恋を囁き、彼女は激しく動転する。 ロボットを引き取ったあと、技術者はいう。 「ロボットが恋をするなんてことはあるのかね?」 「ばかね」ともう一人が答える。「そんなことじゃなかったわ、起きたのは。ロボットには三原則があるのよ。人間を傷つけてはならないし、傷つけられるのを見過ごしてもならない。このロボットは彼女を守ったの」 「だがそれは、いったい、どういうことだい?」 「まだわからないの? 彼女は自分自身の劣等感を通じて傷ついていた。傷つき続けていた。だからこのロボットは…」 そこで研究者は言葉を切り、同僚を見上げる。苛立たしげに微笑して。 「考えてみてちょうだい。どんな女だって、自分の魅力が血の通わないロボットの心さえ動かしたと思ったら、自分自身を見直すわ。そういうことよ」 さて、この物語を私はきわめて面白く読んだ。 それで考えてみたものである。私もまた、他人の言動より、自分自身の劣等感によって傷ついてはいないだろうか。だがそれはムダなことではないか? なぜなら自分を見るように他人を見るほどヒマなヤツはいない。 なによりそれは時間のムダだ! 悩んでいても何も解決しない。問題が何でどうすれば解決できるのかと問い返し、それを埋めていく努力をしていた方がまだマシではないか。というわけで、私は劣等感と遊ぶのをやめた。 もっともそれは劣等感を持たなくなったというわけではない。私はいまだに自分の身長を高すぎると思っているし、太りすぎだと思っているし、自分の鼻がつぶれていると思っているし、仕事が遅いし下手だと思っているし、自堕落な怠け者だと思っているし、音痴だと思っているし、物知らずの非常識人だと思っている。ただそれらに必要以上に悩まないだけだ。 どう生きても人は人。嘘をつかず善のみなし美しい十全な生き物は人ではない。そんならまあ、いいんじゃないか? 私はロボットに恋をしかけられる必要がない。ただこの不完全な生き物としての私自身と行くだけだ。 いまではどうも、歴史の中に無数に生きて死ぬ、人という不完全な生き物のうちのひとつの個体として、自分を遠く見渡すように生きている。 -
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