- 2006年01月19日(木) 亡霊を見た。と、いったら、ついに私がぷっつんしたかと思う人もあるかもしれない。しかし私はついさっき、亡霊を見たのだ。しかも気が狂ったような気もいまのところしていない。亡霊は私の犬だった。 もっとも「見た」というのはいささか語弊があるかもしれない。私はただ私の死んだ犬がすぐかたわらにいると知っただけである。ハッハという息を聞いたわけでもない。肩の上にもたれる重さを感じたとか、そんな表層的なものではない。だがそこにいた。わかるだろうか? わからないだろう。 私の犬はわたしとよく似ていた。つまり人間種族になつかない。彼は私を確かに愛していたのに違いないのだが、その愛情は、じゃれついたり舐めたりとかそういう形では表明されず、ただ先を行きながら振り返る、その黒い目の眼差しの奥の無造作な、当然至極とでもいうような気にかけ方でだけ現された。それもまた私とよく似ているところである。 実際、そうした無造作な形以外で、私が示したと感じられる愛情はすべて儀礼的なものである。そして私がそんなふうに人間種族を愛したことがあるのはたった一度だけだ。犬でもそうだ。たった一度だ。それで十分だ。 さあ、ここまで書けばおわかりかもしれない。私は部屋の中にいて、私の犬のあの無造作な視線を感じたのだ。池のはたで無理やり毛皮をすいてやっていたあの秋の夕刻に感じたような、尊大な、無造作な、そんなふうにでなくてはとてもあらわしきれないほど深い、狂おしいほど深い愛情を。 それで私は私の犬がそこにいることがわかった。そして私の犬はもう死んでいるから、亡霊を見たことがわかったという次第である。 -
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