終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2006年01月02日(月)

 舞踏は祈りだ。カランシアの舞いを見るにつけ、マグロールはそう思う。それにしても、この小さな――確かに昔ほど小さくはない――弟の舞踏にはなにか不思議な感動がある。明瞭でない何かが心の奥底を揺るがすような。泣きむせぶ鴎の飛翔に似て胸を揺すぶる。
「なにがおまえをそんなに舞わせる」
 まだ黒髪にヤヴァンナを祀る祭の絹のリボンを幾つも編みこんだ弟を生きた柳を編んだ屋根の東屋に迎え入れ、傍らに座らせて尋ねた。舞い手の衣装はゆるく風にたなびいて、上気した頬には駆けてきたせいで薄く汗が浮いていた。マグロールは膝の上の竪琴を脇に置いて弟を招く。
「僕は、膝にのるような子供ではありませんよ。それよりも、そんなって、どんなです、兄さま?」
 背丈では、カランシアはもう、マグロールの胸に届く。それでも伶人たり武人たる次兄にはほど遠いか細い少年の体だ。マグロールは笑って弟を抱き寄せた。頬でもって黒髪に触れれば、暖かな編み目が感じられた。
「風のごとく風に吹かれる花のごとく、また空をゆく鳥のごとく」
 耳元で囁かれた言葉にカランシアは息の音をさせて笑い、兄を見上げた。
「僕の手や足は踊りを知っているんです、兄さま。僕はただ立って踊ろうと思うだけです。そうすると僕はもう踊っている。ただ…」
 ふっとカランシアは目を細めた。いまだ知られることのない夕暮れの光に似た灰色の瞳は遠い彼方を見つめるよう。マグロールは母がいつかそうした目をしていたことがあったと思い出す。あれはいつのことだったか。
「ただ?」
 子供の手が伸びてくる。マグロールの編まない髪をもてあそぶ。その子の頭を膝の上に抱き取って横たえてやって、マグロールは微笑した。
「ただ遠くかなたに何かが見えることがあります。それは恐ろしいような、遠くでひどく大きな火災が起きているようですが、ときにはなにか懐かしく心惹かれ泣きたいような想いをかきたてるようでもあります」
 細い手が赤みをおびたマグロールの髪を掴んで引き寄せ、口付けする。
「踊っているときは、遠くまで見渡せるようです。それはとても恐ろしくて悲しくて、それでも、果てしなく高い塔を見上げるときの畏敬の気持ちにも似ています。踊っているときは…」
 マグロールはひどくいたましいような思いになって、弟の額を撫でた。
「そういう気持ちのときは、僕は祈るんです。いや、そうでないな。そうでない。僕は祈りになるんです。ひとつの祈りに。恐ろしいことが起きないように、そうしてもし起きてしまったときは僕を憶病にさせないでって」
 マグロールは弟の額を頬を撫でる。そうしてすっと髪に指をさしいれたとき、カランシアが小さく声を上げて身じろぎした。同時に指先には。
「好きな娘でもできたのか?」
 ぱっと離れてしまった小さな弟に、マグロールは少しばかり驚き、少しばかり笑って問いかけた。カランシアは困ったように唇を結んでいる。マグロールの指先が捉えたのは豊かな髪に隠れたみつあみだった。小さな編み目は、エルダールの小さな約束事にある。想う人がいるなら隠れたみつあみを作りなさい。愛する人がそれを解いてくれたら、きっと幸せになる。
「そんなじゃありません」
 頬を赤くして呟く弟にマグロールは笑う。
「そんなに照れなくともよいではないか。おいで、兄さんにもお前の想う娘のことを聞かせておくれ」
 なだめる声にもカランシアはプイと向こうを向いて駆け去ってしまった。マグロールが声をたてて笑っていると、入れ違いに東屋から歩み出てきたマイズロスが怪訝なように首をかしげた。
「どうした、マグロール。カランシアが顔を真っ赤にして走って行った」
 マグロールは笑って答えなかった。


カランシアの外見年齢12歳くらいがいいなあ…。
好きな娘なんか別にいないけど、舞いの仲間のアイグノールあたりに
無理やり秘密のみつあみ作られちゃったというのがいい。
兄貴のためというのは…NGだな…やっぱ。
でも長兄は我が家の健全性にちょいと不安を抱く(笑)
べたべた次男四男はあくまで家族。ナチュラルにほっぺチューくらいあり。
愛憎激突するのは中つ国でってことで。


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