- 2005年12月21日(水) 久しぶりにシルマリル:怒りの戦いの夜の二人 「見るがいい、刻限だ」 マイズロスの言葉に、マグロールは押し黙った。胸にひたひたと悲しみが満ちつつあるのがわかった。悲しみが、五百年の歳月にわたって拒み続けた巨大な悲しみの波が打ち寄せてきたのだ。この手からはもろもろの愛するものがこぼれ落ちた。こぼれ落ちて喪われた。残っているのは血と罪ばかり。 黙りこくった二人の公子の頭上を、光り輝く船がわたっていった。北へ、最後の戦いへ。だがそれらすべてはこの二人、フェアノール王家の落人とは関わりないのであった。歴史において彼らの果たすべき役割は終わり、時は彼らを超えて、そして流れ落ちようとしている、モルゴスの頭上に。 マグロールは膝をついて、兄を見上げた。悲傷と、終局の安堵に満ちて。 「まことに刻限は至りました。闇は極まり、その終わりに光に転じました」 沈黙があった。恐ろしい沈黙だった。マグロールは、その沈黙に怯えた。赤銅色の巻髪を頂いた兄の眼差しは燃えている。燃えているのはウドゥンの火だ。なるほどゴルゴロスから吊られていた長いあいだ、この眼に映っていたのはその光だったのだ。その激しく暗く恐るべき炎だったのだ。 「まだだ、マグロール。まだ終わらぬ。まだ誓言が残っている」 重たく言われた言葉に、マグロールはおののいた。それは確かに、この上悪に悪を重ね、血に血を塗ることを心定めた言葉であったのだ。しかもこの兄がそのごとくするならば、マグロールは逆らえぬ。いかなる悪、いかなる血であれ、最後に残った兄弟の絆を断つには足りないからだ。それは彼も我もよく知ることであった。それが証拠に、ウドゥンの暗い火を宿していた瞳は、憐れみに満ちている。憐れみと悲傷といやまさる没落への意志に。 「行こう。世に朝が廻ろうと、我らの上にあるのは闇。永劫の夜ぞ」 「さあれ、兄上」 マグロールは沈痛に囁いた。 「さあれ、我らほど朝を恋うているものもありますまい。ああ、まことに、世には無数のエルダァルがあり、無数のアタニがありますれど!」 マイズロスはもはや一言もいわず、かくのごとくその夜は更けた。夜明けの前に、北方からは幾度となく遠雷に似た轟きが物凄く響き渡り、地に生きるものすべてを不安に陥れた。 この夜は後に、大いなる怒りの戦いと呼ばれる。 カランシアがいない…。寂しい。また書こう。 fさんに捧げます。えーと、fさんでいいんですよね? -
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