終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年12月16日(金)


「なんでって?」
 エイトの問いに、ククールは面食らって問い返した。実際、それはククールにとって自明なことだったし、およそ世界中の誰にとっても自明なことだろうと考えていたからだ。
 ククールとエイトはオークニスの宿でいささか酔っ払い、いささか退屈し、いささか気が滅入っていた。だからといってそんな話題になったのは奇妙なことだった。実際、ククールはなにがどう転んでこんな話を自分がしたのかどうしたって思い出せなかった。とはいえ話したことは話したのだ。つまりもう何年も前のとある一夜、まだ修道院にいたころに、兄マルチェロと寝たことを。
「なんでってこと、ないだろ。不思議に思わないほうがおかしい。おまえはマルチェロさんに一服盛って童貞奪ったんだろ? やられた方はすごいショックじゃないの? そのことについて話もしなかったっていうのかよ」
「話なんかするわけねぇだろ。何を話すってんだよ?」
「じゃあ無言で殴られたとか?」
「おまえさ…」
 ククールはあきれ果てて年下の友人を見つめた。鯨が砂漠を散歩していたとでも言われたほうがまだ呆れはしなかった。だがどうやら相手も同じほどあきれてこちらを見ているらしいと悟って、ククールはため息をついた。
「あのさ、おまえさ、じゃあ俺が兄貴に『何でやったか知りたいか』って聞いたとしてだよ、あの兄貴が一言でも口にすると思う?」
「つーか、俺は、マルチェロさんの方が『何でやった』って聞くと思う」
「そんで、聞かれたとして、俺が答えると思う?」
「答えないの?」
「答えねえよ。まあ、賭けてもいいけど聞かれやしねえけどな」
「なんで?」
 ククールは呆れ果てるのを通り越して苦笑を浮かべてエイトを見た。
「あのなあ、『なんで』ってのは、俺たちの間にはないんだよ。兄貴は俺のことは何一つ知りたがらない。俺が何をしたって、そりゃ表ざたになれば体面があるから修道院の規律に照らして拷問を言いつけるくらいはするけど、フツーは無視。俺もそのへんはよく知ってるし、あらためて確認するとやわなハートが傷つくから、いちいち古傷抉るような質問しねえ。わかった?」
「じゃーさぁ」
 エイトが不服そうに頬を膨らませた。
「今、俺が聞くよ。なんでマルチェロさんのこと、襲ったの? 賭けってのは口実だろ、絶対」
「なんでお前に言わなきゃいけねーの? そもそもなんだってこんな恥ずかしい話になってんだよ。俺はもう寝るぜ」
「言えよ、ククール」
 立ち上がりかけたククールは食い下がられて苦笑した。
「じゃあ聞くけどよ、おまえ、ミーティア姫をズリネタにしたことある?」
 さすがに閉口した様子のエイトを見下ろしてククールはちらと笑った。
「俺は兄貴をズリネタにしてたぜ。ガキのころからな。あいつのこと考えながらあてがわれた相手とヤってたこともある。そのへんから推察してくれ。じゃあな。明日も早いから、もう寝るわ」
 言うだけ言って度肝を抜かれたエイトを残してククールは階上に消えた。エイトはしばらく身動きもせずにいたが、やがて残った酒を引き寄せた。


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