終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年11月29日(火)

冬のボーナスは、ピアノを買う!(←レファラを鳴らして感動したらしい)

グールドがオルガン弾いてる…ヒィ。
カザルスの無伴奏チェロは音が悪い。70年前の録音だもんなァ。

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 天井の高い聖母学校教会のオルガンが、マルチェロはとても好きだった。確かに純正調を守るそれはもう時代遅れになりかけてはいたが、堂々としたストップや金の渦巻き模様で飾られた三段の鍵盤は愛らしく、響きもまた金色を帯びて美しかったからだ。特に気に入っていたのは、ボタンで操作するおもちゃのような小さなベルで、礼拝や婚礼には、明るい響きで歌った。
 マルチェロは聖歌隊の練習のない午後に、人影のない教会で、こっそりと大きなオルガンを弾き鳴らした。礼拝の時にふいごを押す老人が昼食に出ている時間が狙い目だったから、その役目はいつもダニエルに頼んだ。聖歌隊でソプラノのソロを歌う代わりに学費を免除されている給費生のマルチェロと違って、ダニエルは貴族の息子だったが、たいていマルチェロの頼みを聞いた。というのはどの授業にしろ、マルチェロのノートと親身な指導なしには合格をもらえないということがわかっていたからだ。
 いつかこのオルガンで主日ごとのカンタータやミサを弾きたい、というのがマルチェロの何よりの願いだった。だがそれを声に出すことはない。もうじきに声変わりすれば、学校にもいられなくなるのがわかっていたからだ。
マルチェロは鍵盤を前に頭を傾げた。このあいだから練習しているフーガを弾こうか、それともつい二日前に聖歌隊で配られたばかりのカンタータのとりわけ美しい響きのコラールを弾こうか、迷ったからだ。
「……」
 弾き始めたのはコラールだ。足で操作するペダル部が多いのは難儀だが昨年からずいぶん背が伸びたせいで、トリルだってそれほど骨を折らずに弾ける。以前は半分ばかり椅子からずり落ちるようにして弾いていたものだが。楽譜は頭の中にある。
 コラールを弾き終えると、そのままオルガンに四声のフーガを歌わせ始める。こちらはなかなかの難物で、少しでも止まれば元には戻れない。オディロの作る曲はいつだって織ったように綿密で、無駄な音などなく、あんなにもやすやすと弾きこなしていることの方が信じられなかった。
 それでも注意深く奏でさえすれば、絹や緞子のような、滑らかな光沢を帯びた音楽が見えてくる。マルチェロは夢中で難しい中盤を乗り切り、それを過ぎるとややほっとして、すべての糸のほどけるような終結へと向かった。奏で終えて見上げれば、窓を通って差し込む日の光で通風管が明るく輝いている。
「見事な演奏じゃった」
 はっとして振り返ると、にこにこと笑みを浮かべてオディロが立っていた。その背後には「法皇」と学内外であだなされる長身の校長が。思わずうろたえるマルチェロの前でオディロが楽長の方を向いて言った。
「さっき言うたことじゃが、少しは考える気になったかのう?」
「ふむ…」
 校長にじろじろと見られて、マルチェロは思わず下を向いた。禁じられてはいないとはいえ、許可なくオルガンを弾いていた現場である。オディロは怒っていないようだが、校長は…。
「よかろう」
 苦みのある声が言った。マルチェロは顔を上げる。校長はマルチェロを見下ろして頷き、ついでオディロの方を向いた。
「だが、すぐにではないぞ。マルチェロももう12歳になる、声変わりも間もなくだろう。その時がきたら、おぬしの弟子にするがいい。だが今はまだ、聖歌隊にいてもらわねば困る」
「それで決まりじゃな」
 きょとんとしているマルチェロの前で、オディロがにこりと笑った。マルチェロが何か言うよりはやく、高いところから歓声が上がった。
「バンザイ! マルチェロは学校を出ていかなくてすむぞ! 俺も卒業できるぞ!」
 ふいごの横で小躍りしているのは小太りの影だ。
「おお? あれはダニエルじゃな。あやつが一番うれしそうじゃな」
 オディロは言って、それからマルチェロを振り返って言った。
「のう、マルチェロ?」
 その時ようやく事態を飲み込んだマルチェロは、慌てて首を振った。
「いいえ、いいえ、オディロ様」
 喜びは息を詰まらせてこみあげる。この学校にいられる。オディロの教えを受けられる。そうだ、オルガンの! 頬を真っ赤にして、マルチェロは言った。
「一番うれしいのは僕です。僕です! 決まってますとも」
 オディロがやさしく微笑んだ。


音楽家兄。子供時代。お金がないので給費生。
ソロを歌うとわずかながら俸給ももらえるので母親に仕送り。ダニエルは『宿命―』から客演。鬼のように怒りながら教えるマルチェロに試験前はいつも泣かされているらしい。


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