- 2005年11月23日(水) 最近甘い。 個人的に、文章ならではの甘さを追求したいと思うので、 そのへんがちょいと模索中なのかもしれない。 恋い慕う心の動きは甘いし、情欲発動の瞬間の視界もイイ。 性愛というのは基本的に肉体と言語による対等な対話だと思うので、 相互理解や小さい諍いや、先んじようとする思いも好きだ。 むしろそのへんにこそ私が書けるエロはあると思う。 …「清潔で礼儀正しい」エロでいいや。 もう一つ。地震が怖い。 阪神大震災のときにケロっとしていた反動で、 夜中なんか目を覚ますと、「来るんじゃないか」とドキドキする。 ああ、言っとくけど鬱病じゃないから。 単に、科学的に「近く来る」といわれていることを知ってて、 かつ私も信じているので、それが「今」じゃないかと不安になるだけだ。 噂の不良マンションをつかまされたひとたちは、もっと辛いだろう。 そしてこの「いつくるか、いつくるか」というのが、 現代の首都圏をジワジワと覆いつつあると思う。 妙な話だが、それがいいのか悪いのか、私にはわからない。 -------------------------------------------------------- 勉強家のマルチェロは、ともかく学習が早い。とりあえずキスに関してはコンプリート。nobilmente(上品に)からleggiero(軽く)、vigorosamente(力強く)、risoluto(決然として)まで自由自在。社交界じゃちょっとは浮名も流した俺でもちょっと腰が引けちまうくらいには上達した。ちなみにあんまり上達が早いんで、 「どっかで復習してきた?」 って、からかってやったら、無言のもとに指揮棒の一撃を喰らうはめになった。いや、本気じゃなかったんだって。もちろんさ。そんなことになったら俺は落ち込む。マジで。まあ今でもあれこれ追い越されつつあるんで落ち込みつつあるんだが。音楽室ならともかくベッドの中でまで 「工夫が足りん」 とか言い出されたらどうしようかって心配してんだ、俺…。 ------------------------------------ マルチェロには鍵盤に向かって曲を作る習慣はない。五線譜の置かれたテーブルに向かい、ただ頭の中では出来上がっている曲を書きつけるだけだ。それは、もう何年も昔、音楽の師であったオディロの言いつけだ。 「すべて歌は神を称え、人の魂を喜ばせることを目的とする。奏でることもむろんそうじゃが、よいかマルチェロ。新しい歌を作るとは神聖なことじゃ。戯れに堕してはならぬ、不調和であってはならぬ。それゆえ、心のうちで一切を明らかにしてしまうまでは、五線譜に向かってはならぬ」 常ならば穏やかなオディロが、ただ音楽においてだけは何事も譲らなかった。マルチェロはその言葉を心にとめ、破ることはついぞなかった。また、鍵盤の助けなど借りなくとも音楽は糸を引くように思案のうちに自然と紡がれて旋律は生まれてむしろ手が追いつくのがいつでも困難なほどだった。 だが、近頃は様子が違う。青色で塗られた初冬の空を切り取る窓からマルチェロは黙って机の上に視線を戻した。窓から長く入る光は、まだ昼にもなっていないことを告げている。最近この塔では、とマルチェロは考える。妙に時間がたつのが遅くなった。それに、どうやら、居心地が悪いほど広くもなったようだ。そのせいか、曲を書きとめる手が途切れ途切れになるのは。 扉が開く音がした。マルチェロはかすかに身じろぎし、だが顔を上げない。足音は老人の引きずるもので、のろのろと階段を上がってくる。お仕着せの老爺が姿を見せても、マルチェロは顔を上げない。 「お、おはようございます。昨夜の演奏会は盛況だったそうで。お館さまから手紙を言付かってございますよ。それと…」 老人は机の上を眺め渡し、物問いたげにマルチェロを見た。 「渡すものはない」 「しかし…」 「ご注文は承っている。できていないと言っているのだ」 「――は、しかし」 かつてない事態におどおどとした様子の老人を一瞥する。老人はしきりにまごついた様子でまだしばらく躊躇っていたが、そのうち奥の小部屋に消えた。細々とした用事を足す音が聞こえてくる。マルチェロは置かれた手紙を手に取った。流麗な文字が仰々しい家名を告げる。裏返せば赤い蝋の封印。手を伸ばして小刀を取り、折り返しを切り開いた。 内容―。二重奏組曲評判良し、仏国風の旋律を取り入れた作品を今後も書くこと。しばらくは演奏会が続くが、既に命じたヴァイオリン独奏曲、オルガンカンタータは期日通りに書き上げること。Mの病状は小康に向かった、オディロ殿の年金についても不自由ないよう手配は継続する。以上。 むしろ何の感動もなくマルチェロは読み終え、優美な手紙を閉じた。イニシアルだけが記された母親と恩師の名によって心をかすめた思いは懐かしく、だが何一つ現状は動かないのだということも明らかだった。 「マルチェロ様、それでは私はこれで」 用事を終えた老人が立っていた。マルチェロは沈黙を守る。 「夕食はいつもの時刻に運ばせます。ほかにお言いつけは」 「五線譜とインクが足りぬ。切れる前に補充を。仏国で評判の作曲家の譜面が手に入れば届けるように」 「は」 「それから」 マルチェロはためらった。老人は辛抱強く立っている。 「何でもない。行け」 老人は頭を下げて歩き出した。マルチェロは喉のあたりまで出かかった問いを反芻する。だがそれは問うことなどできない種類のものだ。けっして。そして。なぜなら、とマルチェロは考える。なぜなら、私はそれを知ることを望んでいない。 マルチェロは窓を見た。日の光よりほか、音も風景も伝えない高い窓を。マルチェロは立ち上がり、チェンバロの蓋を開いた。 「オディロ様、お許しを」 ひときわ鋭く、ひときわ切実な痛みに満ち、だがわずかも規律を外れることを許さない、そうした異様な緊張を帯びた響きが塔に満ちた。 音楽家兄。オディロ様登場。 しかしアレか、シーツとか爺さんに始末させてたのか兄? まあいいや。 ええと、アンケート協力ありがとうございました。 御4方に回答を頂いたのですが、みんなバラバラでいらっしゃる…。 ない頭を絞って考えます。どうすっかな…。 -
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