終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年11月22日(火)


「…feroce?(野性的に)」
「energico(精力的に)」
「どうやんのさ、それ。ねぇ…」
「―さあ、どうだ、わかったか?」
「ん、それさ…。どっちかっていうと、appassionatato(情熱的に)」
「違う。それは、こうだ。いいか―」
「でもそれ、cantabile(歌うように)だ」
「なかなか意見があわないな。これはどうだ、grazioso(優美に)」
「ん、いい。でも俺が好きなのはこう――amoroso(愛情をもって)」
「つまり、どう違う?」
「黙って。もう一度やってみる」
「夜があけるまで何度でも。amoroso?」
「ん、amoroso。どう…わかった?」
「そうだな…。今度は私がやってみよう」
「なあ、マルチェロ?」
「どうした?」
「俺きっと、明日は、まともな顔して楽譜、見れない」
「努力することだ。私も努力する」
「そうするよ、マエストロ。思イ煩ウナ、明日ハ汝ノ思イノ外ニアル」
「問題が解決したところで、先を続けよう」
「amoroso(愛情をもって)?」
「amoroso」

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 不安を孕んだ弦の響きが、長く長く弾きだされる。リズムは重く、舞曲の拍子を借りながら、その気分は沈潜する狂熱と倦怠だ。おそらく名前のない曲であり、これから後も二度と奏でられることのない即興曲だろうと、ゼシカは考える。だがこの従兄弟が、これほど一心不乱に、汗みずくになりながらも一瞬も休むことなく弦と弓にたたきつけずにはいられない激情とは何だろうと、扉の脇に立ったまま、深く胸を打たれずにはいられなかった。
 ククールは一つの影、部屋を照らす光は手元の小さな灯火だけ。その光の輪の中で、銀の髪はゆすられ、白い細い手が忙しなく動き続けて微細なビブラートや素早いパッセージを荒々しく生み出している。チェロにこの世ならぬ悲嘆を叫ばせているのは確かにその心だ。ゼシカは耳を澄ませた。
 どれだけ時間が過ぎただろう。始まりもなく終わりもない、およそ曲の体などなしてはいないのに、聞くものの心を揺るがさずにはおかないような激しさのまま演奏は続き、だが金属の弦が裂ける断裂音とともに、途切れた。
「ツ…」
 低い声。見れば、ククールは頬を拭い、その指は血の赤で濡れている。切れた弦が跳ねた瞬間に切ったに違いなかった。ゼシカは傷ましい思いに思わず進み出た。
「ククール…」
 のろのろと、重たく向けられた顔はひどく悲しげだ。
「ごめん、勝手に入って。――聞いてて。ケガ…したの?」
 ククールはしばらく何も言わず、やがて頷いた。大成功に終わった城の演奏会のあと、ククールはおかしかった。何も言わず、陛下からお誉めの言葉を頂く父親の姿も見ずに、帰還の馬車に乗り込み、館に帰ってからはたった一人で部屋に閉じこもってしまった。その顔は今も死人のように青ざめたままだ。髪は乱れて血を流す頬にかかり、いっそ鬼気迫るようだった。
 ゼシカは躊躇しながらも部屋に歩み入り、ククールの頬の傷にそっと、ハンカチを押し当てた。今、なにかを聞くことは、手ひどくこの従兄弟を傷つけることになるだろうと思えたからだ。
「目でなくってよかったわ…」
 囁いたゼシカの手をククールが押さえた。見上げる目は青い。青く涙をためている。ゼシカの記憶にある限り、ククールが泣いたことはなかった。
「ククール?」
 答えはない。青い目は閉じ、涙がその頬を流れ落ちる。嗚咽は低く漏らされて、何度もかぶりを振る様子は子供のようだ。ゼシカは腕を伸ばしてククールを抱き取った。恋になるにはあまりに幼いときから一緒にいすぎたけれど、とゼシカは考える。だからこそ、あなたがどうしてほしいのかわかる。どれだけ苦しんでいるかがわかる。
 ゼシカは何も言わなかった。泣き続けるククールを抱き取って、子供をあやすように揺らし続けた。倒れたチェロはククールの心のようだとゼシカは思った。弦は破れて。死人のように横たわって。

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というわけで音楽家兄。二本立て。
順番、逆のほうがよかった?

『やさしくわかる楽典』(青島広志著)
とてもわかりやすい。和音の話まで速くいきたいぞー!




以下、前々日分より転載。
ところで、そろそろ拍手の中身を入れ替えようと思う。
それで、こればかりは読んで下さっている方のご意見を重視したい。

1小ネタ:初心にかえってトリビア系とか。
2季節ネタ:冬だし。
3お題ネタ:適当なお題を見つけて。ラブラブ以外で(体に悪いから)。
4●年後シリーズ:今度は一万年後とか?(化石発掘?)
5パロディネタ:王書とかローランの歌とか面白そうなネタから敷衍。

ご意見お待ちしています。要するにアンケート。
三日くらいかけて集計させて頂きたい。



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