- 2005年11月20日(日) 「とおい神代の姫の夜半のあこがれ それとも明日には死ぬる若武者のねむれぬ夢か ああまさにそのごとく、永遠の月は廻り行く それは愛より古いうた」 『ケルト幻想詩画集』(エド・アルフマン著) スカイ島のスカァア女王の英雄クウフリンへの片恋の物語は凄絶だ。 スカァアはわからない、誰を殺せばいいのかわからない。 クウフリンを殺せばいいのか、その思い人イテーンを殺せばいいのか、 イテーンの夫ミテルを殺せばいいのか、自ら胸を貫いて死ねばいいのか。 ああ、誰を殺せばいいのか、女王はわからずにさ迷う。 スカァアはクウフリンを殺さず、イテーンを、ミテルを殺さなかった。 自らを殺すこともなく、捕虜二十人をことさら酷いやりかたで殺した。 戦いと死と流血を愛する女王であったが、 その心はクウフリンという傷のために喜ばなかった。 女王の恋は誇り高くまた大いなるもので、ただ一度である。 それがどれほど望みのないものであろうと、やり直しは出来ない。 スカァアは砦に立つ。砦はただひとつ、見張りの火を除いて闇だ。 安息はすべての上にあるが、スカァアの上にはこない。 この物語は、あらゆる教会の鐘の音から見放されている。 ただ荒海と、FとAの音を欠く音階で奏でられる歌があるばかり。 ところで、そろそろ拍手の中身を入れ替えようと思う。 それで、こればかりは読んで下さっている方のご意見を重視したい。 1小ネタ:初心にかえってトリビア系とか。 2季節ネタ:冬だし。 3お題ネタ:適当なお題を見つけて。ラブラブ以外で(体に悪いから)。 4●年後シリーズ:今度は一万年後とか?(化石発掘?) 5パロディネタ:王書とかローランの歌とか面白そうなネタから敷衍。 ご意見お待ちしています。要するにアンケート。 三日くらいかけて集計させて頂きたい。 ------------------------------------------------------ 乱雑な部屋はカーテンを下ろして暗く、締め切られている。ククールは目を覚まし、カウチの上で毛布にくるまったまま眠っていたことを知った。カーテンの隙間からは明るい西日がほのかに漏れている。 「――夜は明けるんだな」 しばらくその光を見ていたククールは、髪をかきあげ、苦く呟いた。テーブルの上に乱雑に並んでいるのは空の酒瓶だ。そうだ、マルチェロににべもなくあの塔を追い出されてから、もう何日たったのだろう。飲んでは眠り、起きればまた飲んで泥のように眠る。何を考えるにも耐えられなかった。 ひどい二日酔いにぐらぐらする頭に眉をしかめて毛布をかきよせ、カウチの上で体を丸める。目など覚めねばよかった。朝など来なければよかったのだ。影の中に投げ出されたチェロは横たわっている。ひどく壁に投げつけたはずだが、頑丈な楽器はニスひとつはげてもいない。そんなことはどうでもよかった。マルチェロはもう二度とこちらを向いてくれなどしないだろう。 絶望の中に蹲り、ククールは目を閉じた。泣くにはひどすぎた。ともに過ごした時間も交わした口付けもなんの意味もなかった。彼をあそこに閉じ込めているのはククールの父親で、その血は疑うらくもなく血管を流れているのだから。 はっとククールは目を開いた。なぜ父親はマルチェロをあの塔に閉じ込めているのだろうか。あの首の枷は何のためにはめられていたのか。マルチェロとは、あのオルガンとクラヴィーアの名手、黒髪と緑の目の男とは誰だったのか。ククールは自分が少しも知らないことに気づいた。それは確かに、マルチェロがそこにいる限りはどうでもよかったのだが―― 乱暴に扉が叩かれた。びくりとククールは身をすくませる。返事をせずにいると、ノックがもう一度。 「いるんでしょ、ククール! 開けるわよ!」 ばたん、と、音をたてて扉が開いた。流れ込んできたまぶしい光にククールは目を細める。声の主は見ずともわかる。くびれた腰に手をあてたゼシカだ。 「うわっ、酒臭ッ! なにこれ、ククール。あんた、最近は真面目になったって聞いてたのに、なによ。失恋でもしてアル中にでもなったってわけ?」 ククールがへどもど言ってもぐりこもうとした毛布を引っ剥がされた。 「なんでもいいから、さあ、起きなさいよ。起きてさっさと支度をするの。リーザスから呼び出しといてこのザマは何よ。おじさまの新作の発表会に行くって言い出したのはあんたなんですからね!」 有力な地方貴族の娘で遠縁の従姉妹にあたるゼシカに、ククールが勝てたためしはない。それはゼシカが常に善良で正しいからであり、今だってククールのことを本気で心配して引っ張り出そうとしているからであり、同時にその無類の向こうっ気の強さのためであった。 問答無用で風呂を使わされ、髭をあたられ、髪を洗われ、正装を着せられる。酒臭さを消すために香水をたっぷりかけられたところで、ククールはうんざりして、なんとか行かずにすまないものかと考えた。だが馬車で一日がかりのリーザスから呼び出したゼシカにもすまなかったし、なにより一人で酒を喰らっていても気持ちが晴れないことはわかりきっていた。 「なんとか見れるようになったわね」 豊かな胸を深紅のタフタのドレスに包んだゼシカがにこりと笑った。いつものククールならお世辞の一つも言うところだが、そんな気力はなかった。やつれた頬にゼシカが触れる。 「心配させないで、色男の従兄弟さん」 「…悪い」 「行きましょう」 ゼシカは微笑み、ククールの腕を取った。 馬車の窓の外次第に暮れて、城の影が近づく頃には宵にかかった。馬の蹄の音を聞きながら、ククールは目を閉じていた。出立のときに長い影を落とす西の塔を見たくなくて目を閉じ、それきり開こうと思わなかったのだ。 「もう着くわよ。でも、もう始まってしまっているわね、きっと」 ゼシカが囁いた。ククールは目を開く。馬車は長いだらだら坂をもうほとんど上りきって、車留めに入るところ。きらびやかなお仕着せの近衛兵が馬車の扉を開き、侯爵家の名を呼ばう。ククールはゼシカに手を貸して馬車から下ろし、案内に従って奥の広間へ歩き出した。 「いつも思うんだけど、このお城ってあんまり趣味が良くないわ」 小声で囁くゼシカに、ククールは少し笑った。確かに壁を鏡や絵で埋め尽くすような内装は品のよいものではない。しかもことごとく金箔で覆った光り輝く空間演出ときたら。 「いいんだ、来賓をおどかすのが目的なんだからさ」 「でも…」 「しっ、そら、着いた。もう演奏会は始まってるらしいな」 扉の脇に立った二人の侍従が扉を開けた。音楽はあふれ出てククールを包み込む。そのせつな、ククールの思考は白く塗り替えられた。 舞台にはチェンバロが置かれている。その傍らにはチェロが。音楽は四半分も進んだ気配で、主題は緊密な四声の中でさまざまに鳴っている。ククールはそれが何小節目で、どのようにこれから展開していくのか知っていた。そうだ、知らないはずがない。 (…どういう、ことだ) 突如として立ち止まったククールをいぶかしむようにゼシカが見上げる。二日酔いがぶりかえしたようにぐらぐらと目の前が回る。引きずられるようにして客席の一つの座らされたことにもククールは気づかなかった。そうだ、音楽は、そのすべてが親しい。そうでないはずがあろうか。それは西の塔でマルチェロとともに弾いた曲だ。そこは強く、そこは弱くだが歌うように。指示する声のひとつひとつ、その瞬間の表情のすべてがあまりに鮮明だ。そして。ああ、そしてマルチェロは言わなかったか、これはおまえのために書いた曲だ、ごくささやかな小曲だが響きは気に入っている。おまえもきっと気に入るだろう、と。 ククールは死人のように青ざめた顔を上げた。チェロを弾いているのは若い宮廷楽士、ではその楽士を眼差しで指揮しつつチェンバロを弾いているのは。 (親父…!) ククールはきつく目を閉じた。すべてが腑に落ちた。隣ではゼシカが、不安そうにこちらを見上げている。 音楽家兄…ゼシカさん登場。 お城はサンスーシ宮っぽく。 -
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