- 2005年11月16日(水) 『音楽の基礎』(芥川也寸志著)を読んでいる。 それで、幾つか素朴な疑問。 1:♯とか♭をつけるより、移行する先の位置に音符書けよ。 2:ト音記号とかヘ音記号とか使わずに線増やして絶対位置に表記しろ。 3:なんで一つの記号で解釈が分かれるんだ、意味ないじゃん。 4:完全な記譜法はないってなんだそりゃ! 絶対、もっとシンプルな形で明確に表記できると思う。 ただそれをやっちゃうと、解釈が貧しくなるんだろうなあ。 で、目からウロコで納得した部分。 1:音色は振動数の整数倍の周波数を持つ倍音の性質で決まる。 2:音の高さは音源によって判別しにくいものとしやすいものがある。 3:同じ高さの音でも音源の種類や大きさによって高く聞こえたり低く聞こえたりする。 4:音の高低を聞き分ける能力は訓練では向上しない(…) 勉強すればするほどわからん。 しかし音楽があらゆる概念を表現しうる『正しい比喩』であるなら、 確かにその無限数の概念を正しく二次元に表記するのは難しいかもなあ。 しかし正しく固定=表記してもらわないと、音痴には読めないぞ。 まあ、読むものじゃあないけどさ…。 ----------------------------------------- 夜半の窓辺に月影が渡ってゆく。豊かな音楽はマルチェロの手の下のチェンバロから、ククールの手の中のチェロから流れ出して交じり合う。見交わす目のあいだで拍子や強弱の変転さえ無音のうちに了解されて、音楽は滑るように進んでゆく。そのたゆみなさにククールはいつしか酔った。互いが互いを離れることなく応じ答え寄り添う音色のうちに、だんだんと彼我の心さえ交じり合ってゆくように思えてくる。それは非常な幸福で、ククールは恍惚として、もはや弓を動かす手の技にいらざる思考は混じらなかった。 生きて豊かに流れていた音楽を殺したのは、鍵盤に叩きつけられたマルチェロの両手だ。二十もの音がいっせいに強音で鳴り立てて、流麗とした旋律を殺し、調子を殺し、ククールの心に突き刺さった。 「――マル、チェロ?」 鍵盤の上に両手をついたまま、黒髪の男はうつむいて立ち尽くしている。表情は知れなかった。だがその手は震えている。怒りに? ――だがなぜ。 「なんということだ」 低い声は、呪詛のように響いた。ゆっくりと上がった顔は青ざめていた。青ざめて、乱れた髪がかかり、死人のようだ。その目ばかり、釣りあがってククールをにらみつけている。釘のようにその視線が刺さるのを感じたようにさえ思った。 「なぜ私は気づかなかったのか」 両手が鍵盤から上がった。弱い灯火の光がその喉元を戒める枷を鈍く光らせた。真鍮の枷には侯爵家の大鹿の紋が刻まれている。所有の証として。マルチェロはその枷の上に右手を置いた。 「おまえが誰かわかったぞ。そうだ、なぜ気づかなかったのか不思議なほどだ。おまえはククールだ。あの男の息子だ、あの男の嫡男、おまえはククールだ。なんということだ、私はおまえを…」 それより先は語られず、マルチェロは激しい音をたててチェンバロの蓋を閉じた。 「立ち去れ、二度と私の前に顔を見せるな」 ククールはその激しい怒りの前に一言も口をきくことができずにいたが、このときにあたってようやく我に返った。だが開こうとした口は射るような眼差しの前に言葉をなくし、一言も発さないままに閉じた。 「立ち去れ。私はこれ以上の辱めを受けるつもりはない」 退出を命じる荒々しい言葉の前に、ククールは蒼白になりつつも立ち上がった。ひどく惨めな思いのまま、チェロを引きずって歩き出す。立ち止まったのは戸口の前だ。ひどく惨めだった。怒りに燃えたマルチェロの眼差しは恐ろしく、その心がひどく傷ついただろうことを思えば辛く、だが。 「マルチェロ、俺は…」 おずおずと振り返る。マルチェロはこちらに背を向けている。 「俺は、あんたを苦しめるつもりじゃなかったんだ。ただ、あんたの音楽があんまり美しくて、美しくて…俺は、ただ」 ククールは震える手を握り締めた。胸のうちは苦しく、辛く、そして。 「あんたが、好きなんだ」 答えはない。静寂は死んだようだ。空気はふいに冷え冷えとして、先ほどまであれほど生き生きとした音楽が流れていたとは信じられなかった。 「マルチェロ、何か、言ってくれないのか…」 答えはない。ククールは黙って扉を出ると、寒い夜空の下に立ち尽くした。扉は背後に閉まり、胸の奥の涙はふいに溢れ出した。どうすることもできず、何を言うこともできず、ククールは長いあいだ、そこに立っていた。 音楽家兄、ククールの身元露見編(とびとびだ…) -
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