- 2005年07月04日(月) 「にいさま、にいさま!」 カランシアの叫びは暗がりに響いた。がらんとした地下の空洞はどこまでもどこまでも暗く、子供を取り囲んでいる。先を行く光はあまりに遠い。 「置いていかないで!」 声は反響して、その末尾は消える。もうなにひとつ見えない。黙っていれば自分がいるのかどうかさえわからなくなってしまいそうで、カランシアは声の限りに何度も兄を呼び、助けを呼んだ。だがその実、遠ざかっていった光が兄だったのかどうかさえ定かでない。叫び、答えはなく―― 「カランシア、どうした」 揺り起こされて、カランシアはびくりと体を震わせた。ぼやけた視界は薄暗いが、近い体温と声がある。麻痺したような手を伸ばして肩を抱く腕に手を重ねた。あやすように手が伸び、額をなで、頬を包んだ。 「――夢を見たのだな?」 それで、夢だったのだと知った。抱き寄せられるままに体を寄せ、響く鼓動に安堵する。自分より高い体温とかすかな体臭に、涙ぐむほど安堵する。 「震えている。怖い夢だったのだな?」 ああ、あれは夢だ。そうだ、マグロールがそう言うのだから、あれは夢だ。予見などではない。いつかはまこととなる未来などではない。 -
|
|