終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年06月29日(水)

「俺にはわかってる」


 ククールは言った。マルチェロは何も言わない。そのはずだ。いましがたかけたばかりの魔法はわずかな身じろぎも許すものではないから。その意識と感覚と思考はいかにもさえざえとしているであろうが。

「俺はわかってる、あんたは神に愛されたい」

 ククールはやさしく言った。残酷な気分は底を打っている。いまはただ、これから起こることについての奇妙な同情と勝利の満足さがある。やさしい気分にもなろうというもの。手を伸ばして黒髪に触れた。子供の髪をすいてその思いをなだめるように兄の髪をすく。

「あんたは神に愛されたい。だから、あんたは半歩だって戒律を破らない。あんたは祈りを忘れない。怒りをあらわにしない。笑わない。そして」

 指先に硬いあたたかい黒髪を感じながら手を引き戻し、それから、指先で兄ののどをかすめた。夜着のあわせにすべらせる。布の下の皮膚。
 手と指でその肉体の温度と形を知りながら、布をはだけ、そして。


「――肉欲の禁を破ったこともない」


 指先をからめたものの、その形。こちらを見上げる目の中に怯えを見たと思ったのは考えすぎだったのか。ぬるい湯のように我が身から溢れるのは、よく知るもの。肉欲。情欲。接合を性急に求める、端的な願い。

「あんたにわかるだろうか。わかるか? 俺はいま、あんたが欲しいんだ。一日おもてで日の光を浴びて働いて、のどの渇きに苦しめられながら、ビールを飲みたいと思うときみたいにさ。夜も遅くに家路をたどりながら、まだまだ遠い家路の先の自分のベッドを思い描いて恋しく思うように、さ。俺はあんたをくわえ込みたくて、仕方がないんだ。なあ、わかるか?」

 言葉のおもむくまま指先でもてあそび、なでさすり、愛しむうちに、手の中のものはかすかに震え、体積を増してゆく。のしかかるようにして兄の緑の眼を見下ろしながら、ククールは微笑した。

「あんたをくわえこみたいんだ。それで好きなように腰を使って、あんたをさんざんじらしてやるよ。イっちまう顔を見届けて、俺もイクんだ。ああ、いいぜ。もうあんた、俺の手の中で熱くなってる」

 自分の言葉にむしろ煽られながら、ククールは兄の体をまたいだ。それから兄を手放し、少しばかり湿った指先を、自分の舌でさらに濡らしていく。月光は窓のへりに落ちている。寝台のシーツは白く清潔だ。


「あんたは神に、愛されたい」


 自分の後ろを指で犯しながら、ククールは呟いた。自分の体が熱を帯びてゆくのを感じるのが好きだ。鼓動が強くなる。呼吸が速くなる。舌先で唇を舐めた。淫らな思いは溢れ、流れ、満ちて。は、と、ククールは息を吐いた。馴染みの情欲は、今日は甘い鋭い刃を連れている。

「なあ、次の礼拝のとき、あんた、なんて言うんだ?」

 指先を添えて、己が後ろにあてがう。力を抜いて――その熱を食う。沈めていく。片時だって、緑の目から視線を外さないまま。

「なあ、あんた、なんていうんだ? 司式僧が杖を床に突き鳴らし…」

 熱い。このまま熱におぼれたいのか、言葉でもって緑の目の男を切り裂きたいのか。どちらもだ。どちらも、だ。

「そして」

 体の奥に。兄を受け入れて。その熱を内臓にくわえて。しびれるほど。

「問う、ん、だ。――汝、純潔の誓いを」

 みなまで言わなかった。そうするにはあまりに感覚は激しすぎた。指先に至るまで熱が満ち、しかもこぼれることがない。兄の怒りと敗北感はまざまざと感じられ、しかもその快さ。
 ククールはむずがゆいように首をすくめて笑い、それから腰を使い始めた。
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「お初マルチェロ」本で燃え上がった萌えを、
こんな片隅で無意味に捧げてみる。


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