- 2005年06月28日(火) 1: 竜神王は静かに立ち、遠方を臨み見た。どこまでも何もない。 青空と粘土質の黄色い砂岩の道。それだけだ。 ―さいごに何かを、あるいは誰かを見たのはいつであったか。 思いを手繰れば、黒髪の少年に至る。あれはいつであったろう。 百年前、千年前、それとも昨日。時間が意味を持たない身には、どうも日付は曖昧だ。おそらく百年ほど遠くなく、昨日ほど近くないのだろう。 だがもう少年は二度とは来ないだろう。彼はもう試練を終えた。彼はもう天の祭壇を通り抜けた。そして再び見ることはないだろう。その理由はないのだから。その思考は竜神王に感慨ももたらさない。 それはあまりにあたりまえのことだ。 竜神王は静かに立ち、遠方を見つめている。 2: ハーリドは黄色い砂岩の道を歩いている。行く手は雲に隠れている。 ―自分は何をしに行くのか。 ハーリドは考える。もう試練は終わった。この困難な道を行く理由はもうどこにもない。神たり王たる竜は砂漠のごとく独り満ち足りている。 それではなぜ、今、二本の足で歩いているのか。 理由を発明することはできる。そんなことはいくらでもできる。憎む理由や愛する理由を思いつけぬような薄っぺらな相手ではないことは明らかだ。 だがそれほど愚かなこともあるまいということも明らかだ。 歩みは軽くも重くもなく、だがたどりつけば言うべき言葉を発明せねばならぬであろう。それだけが苦痛であった。 ハーリドは透き通った階段を駆け上がる。竜の扉を押し開ける。 そして声を上げて笑った。 つばさ荒ぶる若い竜のごとく。 -
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