- 2005年06月19日(日) 子供、それもたくさんの子供を親と並べて見るというのは奇妙なことだ。 非常にグロテスクなことだと言ってもいい。 生殖がどのようなものかを目の当たりにすることだから。 耳だった。子供の顔の両側に突き出した耳。 ちらりと見れば、すぐ近くに同じ耳を持った男が立っている。 少女だった。ほっそりした体を水色のワンピースに包んだ少女。 ちらりと見れば、すぐ近くに同じ長い鼻を持った女が立っている。 人間のある要素をこのように取り出して、別の顔や人生段階の上に、 ひょいとくっつけたような、そんな薄気味悪さだ。 なるほど、子孫による永生がこのようなものなら、人は獣に違いない。 そしてまた、つけ足して言うなら、そうだ。 人間の顔をあまりたくさん見ていると、いつの間にか、 子供の顔の中に成熟した面影を、老いた顔の中に幼い時代を、 直感的にまたあまりに明確に明瞭に見て把握することになる。 これは歴史を学ぶと同様に、奇妙な、そして少し悲しい体験である。 つまりそれは四次元方向への視力だ。そんな眼差しは生きるに向かない。 そんな視力をあまりに多く持ったとき、 ひとは情熱や真実にも寿命があることを知ってしまう。 それは苦い知識だ。それは麦の中の毒麦だ。 だが ひとは毒麦を食わねばならないのではないのか。 苦い知識、苦い塩水を噛まねばならないのではないのか。 そんなのはあんまり、あたりまえのことではないのか。 -------------------------------------------------- 竜神王は天の祭壇に立っている。昼も夜もないそこでは、太陽が見えることも月が昇ることもない。ただ空は青く青く、ただ雲が行き交うだけだ。 「どうして、あなたは」 ハーリドは言った。彼はようやく竜の試練を終えたばかりだ。汗まみれの上着は風にはためいて、むき出しの背や肩を途絶えぬ風が吹いていく。 竜神王は振り返った。褪せた黄金の髪もやはり風になびいている。青白い顔とそこに浮かぶ疲労の色は、さきほどの荒々しさをわずかに忍ばせた。 そうだ、実際まったく、荒々しかった。一人きりで挑戦するにはあんまりにも厳しい試練だった。だがハーリドはすんでのところで勝ったし、だからまだここにいるのだ。竜の村ではなく。荒涼たる天の最中に。 「――どうしてあなたは村に帰らないのですか。村人たちは誰一人、あなたを責めないでしょう。それに、あなたは彼らの神で、王です」 微笑は一瞬ばかり、竜神王の薄い唇を過ぎった。それより長くは立ち止まれぬ気配であった。だがそれはほかの表情も同じことだ。 「わたしはながいあいだ、生きすぎた」 ハーリドはきょとんと目を見開いた。言われた言葉と言った言葉のあいだにある飛躍は大きすぎて、彼の手には負えない。 「わたしはもう、ながいあいだ、生きすぎた。生きものたちのあいだに戻ることはもうできないほど長く。ここにいるのが、一番、楽なのだよ」 「でも」 「おまえは若い。野の花のように若い。長老たちも、わたしから見れば同じことだ。みな、野の花だ。太陽が昇り、沈むあいだにも枯れていく」 「でも」 竜神王はハーリドに近づき、子供にそうするように、背をかがめて視線をあわせた。ハーリドは黙ってその竜の目を見返した。竜の目。魔法の源泉のようにいわれるその光は、多分、ただの歳月なのだ。それは確かにただの歳月なのだが、あまりにも長すぎて、竜にとってさえ長すぎて、短命の種族にはそれだけで毒であり迷宮なのだ――抜け出るに難い。 「ハーリド、ウィニアの息子よ。わたしはおまえの母親を知っている。おまえの父親を知っている。おまえの祖父と祖母を知っている。曽祖父母とそのまた祖先を知っている。わたしにとって、おまえは一つの種子だ」 長い細い指がハーリドの髪をなでた。ハーリドはなぜとはわからず悲しくなる。これも竜の魔法だろうか。竜の邪悪な魔法だろうか。 「おまえの微笑が、おまえの笑いがどこから来たか、私は知っている。おまえがどのような顔で泣くのか、狂えばどのように目を見開くのか、私は知っている。おまえの知らぬおまえの顔、老齢と死を知っている。おまえという種子に畳まれているものを知っている。私は丘に立つ巨木だ。長いあいだ野を見下ろしてきた。花のことは知っている」 「生き物の愛と悲しみと、またそのすべての営みを私は知っている。情熱や愛や真実や忠誠や、いやそればかりか悪や諦めや憎しみがどのように生い育ち、どのように根を下ろし、またどのように枯れるか知っている。それが枯れねばならぬものであることを知っている。それが生まれた瞬間に、わたしはそのすべての様相を予感し予見する」 ハーリドは顔を上げた。竜神王は微笑している。それは生き物の微笑のようには見えなかった。それは思い出された記憶のように確固としている。 「私が戻れば、村は塵であることを強いられよう。なぜなら私がそのように見るからだ。私の目にとってはすべてが塵であるからだ。だから、わたしはここにいる。すべてが終わった後の場所に。わかるだろう? ここではすべてが終わっている、すべてが塵なのだ」 ハーリドは長い震える息を吐いた。竜神王はまた笑った。その笑いはこう言うかのようだった。哀れみもまた死ぬ。わたしはそれを見てきた。そのすべての相を見た。哀れみもまた塵なのだ。ほかの一切と同じく。 ハーリドはもはや何も言わなかった。すべてを塵にする竜の魔法の前に、己自身もまた塵になってしまったのだと思った。 *ハーリド:うちのDQ8主人公の名前 拗ねる竜神王を書こうとして、世を拗ねた竜神王になってしまった。 どうしましょうか、師匠! -
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