- 2005年01月19日(水) 見よ、天は力ある方の怒りに震えている。 雲は引き裂かれ空は血のごとき赤に染まる。畏れよ。 罪人が世界の外に投げ落とされるときがきた。ホサナ。 マルチェロは丸天井の聖堂のその壇上に立つ。堂宇に修道士は居並び、威嚇するような聖歌は湧きあがる雲のように空間を埋め尽す。マルチェロは歌わない。彼は歌が嫌いだ。人の口から出る声にすぎないはずのものが、重なり溶け合って響けば人のものならぬ厚みと荘重さと哀切を帯びる。マルチェロはそれが好きではない。 人は人に過ぎぬ。声は声に過ぎぬ。いったいなにほどのことがある。マルチェロはひそかにうそぶく。だが歌わない。できれば聞きたくもなかった。罪人を打つ神の裁きの恐ろしさまた迅速さを歌い上げる終末聖歌が彼は嫌いだ。罪を犯すまえに助けられなかった神が何を裁くというのだ、と、マルチェロは苦々しく思う。 裁きの日はきた。畏れよ、罪人。 山々は大地から毟り取られ、星々はほつれ落ち海は乾きに乾いた。 地獄は貪欲な口を開き地の穢れを底ぐらい腹の奥に飲みこんだ。ホサナ。 マルチェロはただそこに立ったまま見ることと聞くことをやめた。彼は半ば無意識にそれをすることができる。胸の中の教会組織のありふれた謀略に視線を注げばいいだけだ。それで見たくないものも聞きたくないものも遠ざかる。結局、それは常に他人が周辺を徘徊する修道院では不可欠の能力であったし、だからマルチェロがその方法を身につけていることに不思議はまったくなかった。 マルチェロは石像のように壇上に立つ。その目は聖堂を埋め尽す修道士たちを見ない。その耳は激しさを増す歌を聴かない。それが利口と彼は思いこんでいたが、そのようにして見逃すものが多いことには思い及ばない。歌はその調子を変えた。 万軍の主を畏れよ、その拳によく耐えうるものなし。 ホサナ、右手の人々は喜びに満ちて立ち出で、御前にぬかずく。 千年の白き日に続く夜明けは今ぞ東の地平を飾れり。ホサナ。 -
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