終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年01月15日(土)

 祈りを、ああどうか祈りを。
 マルチェロは思い出すことがない。マルチェロはゴルドの夜を思い出すことがない。晴れの式典を朝に控えて左手に掴んだ杖からしんしんと染み出す温度のない冷たさを、その中で指先から死んでいくような長い闇の時間といつからか訪れもせずまた望みもしなかった眠りを。もはや理由すらない野心と支配への嫌悪、それでもなおわが身を駆りたてる悪意に似た意志を。どこか遠くどこか深くで何かにあるいは誰かに救いを求める声を。それはほんとうにあったことなのだろうか。
 マルチェロは思い出すことがない。マルチェロはサヴェッラの夜を思い出すことがない。朝は夜のように始まり夜は夜のように続いた。法皇を憎んだのはその老人が壮麗な館の中で満ち足りていたからだ。誰もに愛されていたからではない。誰もを愛していたからだ。マルチェロその人をさえ。憎まれるならいい。憎しみならありふれている。だが愛は。そんなものは許すわけにはいかなかった。違うか。だがそう呟いたマルチェロは過去のこだまだ。もはやない。
 マルチェロは思い出すことがない。マルチェロはマイエラの夜を思い出すことがない。しんしんと降る雪のように降り積もった日々を。我が身を呪うように我が身に課した憎しみを。すべての善を悪にした我が身の悪意を。そうとも彼の悪意は彼の善行のすべてを汚し、それゆえ彼は世界と銀髪の弟に対すると同様、己が身をも激しく呪った。激しく激しく呪った。その呪いが彼のすべての行為を決めてきた。だがそれももはやない。もはやない。もはや。
 マルチェロは何一つ思い出すことがない。マルチェロの魂は今、石のうちにある。やがて目覚めることがあるのかは誰一人知ることがない。おそらくは神以外には。そして彼の足は雪を踏み、赤い服の少年の横を通り過ぎていく。木漏れ日は雪の上にまだらに落ちて青白く輝いている。青白く。


-



 

 

 

 

ndex
past  next

Mail
エンピツ