終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年01月11日(火)

雪の朝の野はあまりに明るく、マルチェロの黒髪は現実感をなくして一枚の絵に似ている。厳しい面持ちの中で、緑の目は隠しようもなく虚ろ。以前のマルチェロの影のようだ。そうとも影だ、と、マルチェロは自嘲する。したいと思うこともするべきこともなくただ今日と明日とを生き延びる私は以前の私の影に過ぎない。
 だが実際、と、マルチェロは考える。形ばかり祈る手に髪に肩に背に、雪は冷たく清潔に落ちてくる。だが実際、私は何かをほんとうに望んだことがあっただろうか。私がしたいと思っていたことは、本当に私のしたかったことだろうか。名誉を権力を富を力を矜持を罪を罪なきものの殺害を、私は望んでいたのだろうか。それともそれはただ後ろから追いたてる声に過ぎなかったのだろうか。
 マルチェロは声を立てない。ただ一人きり石の家に住むものに声がいるはずもない。何一つ願わず何一つ望まぬものに言葉が必要なはずもない。石の家に住み始めてから、次第に石のように孤独に石のように外界に隔絶するマルチェロの内部で、なお問いばかり廻っていた。時折皮膚の外側に垣間見た風景は驚くほどの早さで過ぎ去っていくようだった。いつからかその風景のところどころに赤い影がのぞくようになったが、マルチェロはぼんやりとそれを意識するのみでその意味や正体については考えてみようともしなかった。なぜ考える必要があるだろう、マルチェロは石だ。あるいは人はこのような状態にあるものを狂気と呼ぶのかもしれなかった。
 そもそもの始めから私は石でなかったのか、と、マルチェロは考える。そもそもの始めから今まで、私はここにこうしていたのではないのか。豪奢を極める法王の館も壮麗な聖堂も人間たちも権力も罪も名誉も富もどこかよそで誰かに身に起きたことにすぎないのではないのか。私はいつもこうしてここにいたのではないか。そうしてどこにも行けないのではないのか。
 ―だが私はどこかに行こうとしたことがあったのだろうか。
 その問いを最後にマルチェロの問いも止まった。型どおり時間通り勤行する手足ばかり残り、時節にあわせて正確に流れる季節だけが残った。




*DQ8。ククール×マルチェロ。なんつーか自閉症め。ククール哀れ。


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