終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年01月10日(月)


 雪の朝の野はあまりに明るく、マルチェロの黒髪は現実感をなくして一枚の絵に似ている。厳しい面持ちの中で、緑の目は隠しようもなく虚ろ。以前のマルチェロの影のようだ。
 ククールがマルチェロを見出したのは偶然だった。それとも必然だったのだろうか? 仲間と別れて三カ月、季節が夏から秋に変わるに十分な時日探しつづた。人里離れ、見捨てられた石の家に行きついたのは確かに偶然だったが、探していたのは隠れもなく本当だ。見つけたマルチェロは少しばかり痩せ、相変わらず背高く、そして言葉を失っていた。なにがマルチェロから言葉を奪ったのか、ククールにはわからない。
 あるいはマルチェロは、ただ言葉を口にしようとしていないだけなのだろうか? 十年来嫌い抜いてきた(そして意に反して命を救われた)弟に向けて口にすべき言葉を見出せないだけなのだろうか? それも十分にありそうなことだ。だから断りもせずマルチェロの家に住みついたのは半ば以上まで嫌がらせだといっていい。
 権力にこだわり地位と名誉にこだわり野心強いマルチェロが、放逐の身となったとはいえどうしてこんな辺境に住みついたのか、ククールにはわからない。広くもない石の家で互いの存在を避け続ける奇妙な同居を始めてから、ククールはマルチェロについて真っ向から考えた。それまでもマルチェロのことばかり考えていると思っていたが、なんのことはない、マルチェロにあしらわれる自分のことを考えていただけだと知った。だがそうと合点し考えてみたところでそうそう結論など出るものではない。気づけば秋は深まり、わずかばかり残っていた木の葉も散って、雪と氷の季節に到った。
 それで、俺はどうすりゃいいんだ、と、ククールは考えた。マルチェロは粗末な毛織の服に荒縄の帯という修道僧のいでたちで朝の勤行の最中だ。雪に膝をつき、なおも降り続く雪に髪を凍らせたままロザリオを握り締め、それでいて寒そうな顔も見せないのだから嫌になる。マイエラ修道院の管理の行き届いた館での生活も、サヴェッラ大聖堂の贅を尽くした白亜の館での日々も、影響を及ぼさなかったのか。それこそ奇妙ではないか。その手を血に汚してまでこの世の栄光を欲しがった男が。
 それともそうではなかったのだろうか。ククールは毛皮のフードに首をうずめなて考える。兄貴は権力も名誉も本当はいらなかったのだろうか。殺人の罪は別のことのために犯されたのだろうか。この男は本当のところ、野に生き野に死にそして何一つ気に病むこともないような性質の男だったのだろうか。あるいはそうかもしれない。だがそうと信じるのはあまりに安直すぎはしまいか。たまに人間離れする兄貴だって、結局のところ人間なのだ。富も名誉も地位も賞賛も欲しいだろう、それらに恵まれなかった者の常として。
「……」ククールは考え事に飽きた。自分がいないように振舞う兄の無言にも日々繰り返される隅から隅まで隙のない勤行を見守るのに飽きた。ククールは立ちあがり、足音を消そうともせずに祈りを捧げるマルチェロに近づいた。
「なあ、俺は頭悪いんだ。それに回りくどいのは性にあわねえ」ククールは言った。
「あんたなんなんだ。何がしてえんだ、何がしたかったんだ。俺のことどう思ってんだ。どう思ってたんだ。言えよ、兄貴。頼むから言ってくれ」
 答えがあるとは思っていなかった。反応だって期待してやいなかったとも、くそ。ああ、あんたは何に祈り、何のために祈り、どうして死ぬこともせずにそこにいるんだ。ククールは声にも出さずに叫んだ。雪は黙って降ってくる。これだっていつものことさ、と、くそ面白くもなくククールは胸の内で呟いた。






*DQ8。ククール×マルチェロ。どうせマイナーだよ。


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