終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2004年08月17日(火)



「彼」はすでに敗北を知っていた。
もうあとわずかな時間のあとに彼らは整列して敵の歌を聴かねばならない。
投手である「彼」が打席に向かう意味を彼は知っている。
指揮官はすでに敗北を受け入れた。「彼」はだから打席に向かう。

「彼」は自分の役割を心得ている。彼は負けねばならない。
この戦いは「彼」のものだった。だから彼が負けねばならない。
夏を終わらせねばならない。それが指揮官からの最後の贈り物だ。

そして彼は見上げる。カクテル光線の中を雨が降ってくる。
この二時間余、彼はこの雨に苦しめられてきた。
敗北か、と、彼は自分自身に向けて呟く。しかも次はない。
ここに夢をうずめる。長い長いあいだ、この夢を信じてきたが。

終わらせよう、と、彼は呟いたかもしれない。
終わらせよう。彼のバットもうなった。3度うなった。
そして終わった。多くの夢の葬られた場所に、彼の夢も死んだ。

「彼」は役目を終えた。歓声が彼の傍らをすりぬけていく。
勝利はもう彼のものではない。敗北は彼によりそっている。
そして彼はもう、何も言わない。肩がひどく軽いことに気づくまで。

気づいて彼は、そうだ。
それでも泣かないだろう。彼は敗北も夢の終わりもひとより早く知った。
だからそれが実際に来たときには、ただたたずんでいるよりほかにない。
涙は流されるより先に枯れている。あるのはただ、
カクテル光線の中を振りしきる、雨。


-



 

 

 

 

ndex
past  next

Mail
エンピツ