- 2004年06月17日(木) 1.コナミドリムシ 顕微鏡の視界の中で、鮮やかなエメラルド色をした二匹の小さなコナミドリムシが交合を始めようとしていた。私が見ているうちに二匹の単細胞生物は重なり合った。細胞が溶け合い、互いの輪郭の中に溶け込んで行く。 ――と見る間に闘いが始まった。ゆるやかに接合し抱擁を交わす染色体の鎖の優雅さとは裏腹に、細胞質の中のもろもろのもの――ミトコンドリア、小胞体、葉緑体――が相互に対して恐るべき殺戮を始めた。同じ生命のうちに二種類は存在できないものたちなのだ。やがて染色体が長い交歓に重なり合うころには、一匹のコナミドリムシとなったその生き物の内部には殺戮を免れたわずかな構造の残滓が残っているだけだった。新しい組み合わせを得た核だけが傷一つなかった。少しばかり疲れ、私はほっとためいきをついて顔を上げた。 彼はすぐ隣に立って、まだ私を見ていた。時計の針は三分と進んでいない。樟脳と酢の匂いのする研究室は夏の真昼の乾いた熱気がこもってひどく暑かった。私は夏服のスカートのひだが汗を吸って重苦しく膝にまとわりついているのを不快に思った。彼の開襟シャツも少し汗ばみ、下に着たランニングの薄い線が浮き上がっていた。私は自分の体がいやに暑く、ひどく気分がたかぶっていることに気づいた。そのたかぶりを解釈すればこういうことだった。つまり。内側を食い尽くすほど抱きあったら、新しい別の生き物に生まれ変われるだろうか。 -
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