- 2002年12月29日(日) 鎮魂歌。わたしの犬へ。 1: 信じられたらいい、おまえは私を待っていたのだと。 私の帰還にその弱った心臓を震わせ、 その夜に死を呼ぶほどに私を待っていたのだと。 私は信じはしない。信じることだけが私にはできない。 信じたいと願うだけだ。 2: おまえは大儀そうに身じろぎした。 あの軽快な見のこなしはどこへ置き去りにされたのだろう? 私の愛撫は戸惑いがちで、私の思いは乱れていた。 おまえは身じろぎした。おまえは私を見上げた。 尾を振ることさえおまえには大儀だった。 おまえは体を震わせた。 私は何も言わなかった。 だがその実、おまえが振ることのできぬ尾に代えて その心臓を震わせていたことを――私は信じたかった。 それほどまでにおまえが私を待っていたと。 ――信じたかった。 3: ああ、おまえ。 あまりにも早い死ではないだろうか。 私はおまえが死んだと、その事実を理解できない。 今おまえはこの家にいないが―― 明日は帰っているだろうと、私の心は思いこみたがる。 耳の端の物音を、おまえの足音と思いこみたがる。 ああ、おまえ。 私の犬、私の道連れ。 私はおまえと遠く離れていたが、 だがその実、私はおまえと寄り添って、幾度となくあの森を歩いたよ。 あの池の間を歩いたよ。あの夕暮れを見たよ。桜の散るさまを。 おまえが笹の葉を鳴らす音を聞きながら、口笛で呼んだよ。 ああ、おまえ。 もういないというのはほんとうかい? 私の心はおそるおそる問う。 4: おまえは掌に乗るほどの大きさだった。 おまえはまだ目を見えず、ただ高い声で鳴いていた。 私はおまえを選んだ。 おまえはやんちゃな子供だった。 おまえは辺りを走りまわり、サンダルをいくつもだめにした。 私はおまえを愛した。 おまえは私の道連れだった。 おまえは私より成熟し、おまえは私とともに歩いた。 ほかになにも求めなかった。私はそれに慰んだ。 いま、わたしはおまえを失ったのか。 失ったのか、永遠に。 永遠に? それを信じるには永遠に近い時間がいるだろう。 あるいは永遠そのものが。 だが今、おまえはいない。 おまえがいない瞬間が雪のように降ってくるのか。 これから。 5: おまえの名前を私はもはや呼ばない。 私の口からその名が出ることはもうないだろう。 答えるもののない名前を。 ああ、呼んだとてどうなろう。 闇の底に白々と、ただ降り積むばかりだ。 ――――――寂しさが。 -
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