- 2001年09月13日(木) 第二回:対話編 1:アル・シムーンとアード・アル・ファドル 「恐れないのか、アル・シムーン。あれは魔物だ」 「知っているよ、アード。だが俺に何ができる?」 「聖者に頼むがいい。都だけだって片手に余るほどの聖者がいる」 「俺がそうした連中を回ってみなかったと思うのかね、アード」 「どうにもならなかったのか?」 「聖フサインを知っているな?」 「ああ。だがあの方は先月亡くなったのじゃなかったか」 「そうだ、アード」 「まさか」 「見ている前で、一瞬だったよ、アード」 「これから、どうするんだ?」 「どうにもできまいよ」 「あれはお前に何を望んでいるんだ、アル・シムーン」 「それがわかれば、それがわかればな、アード」 2:アル・シムーンと女魔 「それがわかれば、と、言うのか。それがわかればな、と。アル・シムーン、そなたは」 「・・・・そう言った」 「では訊ねよ。そなたは妾に訊ねさえしていないではないか。訊ねよ、アル・シムーン」 「答えるつもりなどないのだろう、女魔、お前には」 「訊ねよ、と、言った」 「だが、何と?」 「愚者を装う者は愚かぞ。それくらい承知しているものと思っていたが、アル・シムーン。 いや、承知しているのだな、そなたは」 「お前は俺自身より俺の事をよく知っていると見えるな」 「それでいてそのようなことをぬけぬけと言ってみせる。 そなたは訊ねようとも知りたいとも思ってはいないのだ。違うか、アル・シムーン」 「それだけよくわかっていれば、答えの必要もあるまい」 「アル・シムーン、そなたは何を恐れているのだ? 妾自身か? それとも妾の答えなのか? 意固地な子供さながら全てを跳ね除けようとて身構えた宰相、そなたは何を恐れている?」 「眼前の魔を」 「それともこのくちづけを」 「……あるいは」 3:アル・シムーンと女魔�� 「誰を待っている? あるいは何を? アル・シムーン」 「・・・・何も。・・・・誰も。ここは静かだ」 「これだから人間というものは。 目も見えず、耳も聞こえない。 そのくせ自分ではわかったような顔をしているのだから全く鼻持ちもならぬ」 聞こえぬか、アル・シムーン。 この無数の歌が。あらゆる静寂を織り上げる。あらゆる言葉を織り上げる。見よ」 全ての歌の中で最も力強い歌が来たり来る。夜の調べはその調子を変えた。 ――全ての世界の歌うただ一つの歌の名は、そなたの耳には届かないのか」 高くまた低く、そなた自身も一つの調べ、一つの響き。 聞け、アル・シムーン。聞け」 「俺には聞こえない。だがお前の声なら聞こえる。お前の言葉なら聞いていたい」 「妾は魔ぞ」 「知っている」 「わからないのだ、そなたには。何一つ」 「そうかもしれぬ」 「そうなのだ」 「あるいは」 4:アル・シムーンと女魔�� 「咎めはせぬ。咎めはせぬよ、アル・シムーン。後代の史家のようには。審判を下す者のようには。 妾は訊ねよう・・・・妾はただ訊ねよう。そなたがその母にしたように、静かに、何気なく。 なにゆえ、と」 「このように言う。女と魔に信を置く者は愚者、と」 「そして妾はその両方、と? 否、そなたの調べはそのようなことを妾に告げてはおらぬ。憐れよ、アル・シムーン。 死に臨みながら、なお真実はその唇を越えることがないのか。 死に臨みながら、なおそなたは言葉を知らぬ者のように語るのか」 「皇帝には恨みがあった。殺す理由があった。母と父の仇だ」 「二度までは許そう、アル・シムーン。 だが、次に空言を言えば、妾はそなたを見捨てて立ち去ろう。 そなたは母を愛したことなどなく、父を愛したこともない。 故に皇帝をその息子を怨む理由はないのだ」 「言わねばならぬか、女魔よ」 「地の底まで沈黙を守って行くか。それでは死の眠りも安らかなるまいよ」 「復活の日まで待ってはくれぬか、女魔よ。そこではいかなる秘密も暴かれる」 「あいにくと、妾はそのときには立ち会わぬ。そなたに会うのはこれが最後」 「代価は何だ? この取り引きは公正なものなのか?」 「アル・シムーン。憐れよ、アル・シムーン。 そなたの調べは真実をあらわにすることもできぬほど、激しく揺れている。 激しく揺れ動いている。だが、これが最後と知れ。妾はもはやそなたに会うことはない。 伝えたい言葉があるならその唇で、伝えたい思いがあるならその言葉で言うのだ」 「だがお前は愛など知らぬではないか。 俺の言葉の全てを尽くしたとて母上が振り返らなかったのと同様、お前も振り返るまい」 俺は嫌なのだ。俺は我慢できぬのだ。 思いを隠して押し隠し、隠し通して終るのは。 傷などないふりをして平然と歩いてみせるのは」 俺は泣き叫ぶ。笑うのか? 笑わば笑え。俺はもう疲れた。 愚かと笑え、女魔。俺は砕けた。世界の美しさが俺にとって何だ?」 お前なくば眼前の世界も暗い。 再びお前に会うことはできぬというのか。ならば天国も地獄も俺には同じ。 全ての道がこの目に暗い。お前を愛している。だが、お前は魔だ」 お前は魔だ。 俺は恋するべきでないものを恋した。 俺は愛するべきでないものを愛した。 だが裏切りがなにほどのこと、汚名がなにほどのこと、絶望がなにほどのこと」 ……俺はお前を愛している」 「我が物となれアル・シムーン」 「答えは否だ」 (1999.6?) -
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