終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2001年09月06日(木)

うちの親父殿のお訓示

その1:
「事情は誰にでもある。約束は守れ」

いつも、私の言い訳はこの一言で封殺された。
私が五歳のチビスケの頃でも、である。
犬の散歩をサボったり、時間に遅れたりすると、これが出た。
言い訳をして、正当化をして、できれば、悪かった、と言わずにすませたい私でも――
――ごめんなさい、と、言うしかなかった。

現在では、私は遅刻は断じてしない。
が、同時に、他人の遅刻もかなりの程度に許せないし、待ち合わせ自体に神経を使う。
ので、もしかしたら、損をしてるかもしれない。
ちなみに、寮の共同規則なんかは、今でもたまーに忘れる。
………おばちゃん、こないだは、ゴミ捨て当番の日、忘れてゴメン(涙)
先は長い(ふぅ)


その2:
「やりたいことをやれ。やりたくないならやるな」

私はお稽古事の続かない性質で、ピアノ・バレエ・合気道・体操……みんな、途中でやめた。
しかし、たいていは止めるに先立って、お袋さんとの壮絶な行きたくない戦争があったわけで――
たまたまそのとき親父がいると――これが出るのである。
突き放されたような気がして、たいてい私は泣きべそをかいた。

しかし、ゴネようにも相手のいなくなった最近、そうだなあ、と、思う。
人生には、本当に好きでないことをだらだらやったり、
やりたくないやりたくないとゴネてる暇はないのである。
今なら、そんな暇がありゃ、本の一冊でも読む。
いや、たまーに、ゴネるためにゴネたりは、するけど。
先は長い(ふぅ)


その3:
「有用な資格を持て。他人にはそれしかおまえを判断する基準がない」

就職前に、さんざん言われた。
なにかこう、無闇に反論をしたい気になるセリフではあったが……
しかしまあ、言われてみればそのとおりなのである。
とりあえず漢字検定2級と、図書館司書の資格をとってみた。
が、特に就職に役立った、っつーわけでもなく。
とってみた、というのに止まっている。

このセリフで、自分というものを客観的に見ようと務めようと思い始めた。
その結果が、時間分割やら空間分割やらである。……この日記のどっかに書いたぞ。
自分が他人に見える存在なのだ、ということを気付かせてくれた、という意味で、
このお訓示の意味は大きい、かもしれない。
………だらだらした翌日は、誰にともなく言い分けしたくなるが。
先は長い(ふぅ)


余談:
うちの親父について、最近良く考える。

田舎の農家の八番目、末っ子で、家はお世辞にも豊かとは言いがたく、
兄弟で大学に行ったのは親父だけである。
それもえらい苦学生だったらしく、学生時代の話をさせると、
バイトとまずい飯と世話になった一番上のアニキの話しか出てこない。

大学卒業後は名の通った会社に入り、堪能な語学を買われて、
27でお袋さんと結婚してからも、家族を連れて海外に転勤数知れず、
さらにその転勤先でも妻子ほったらかして年の半分は出張でお留守。
40を過ぎてゴルフを始め、娘や妻に邪険にされつつシングルにまでなる。
50を過ぎても他に人がいないと新しい仕事に回され、現在奮闘中。

寝言は五カ国語放送、
短気だし聞き分けがないと容赦なく子供殴るし、
「ちょっと引っ張って」と指引かせて臭い屁はひるし、
日曜の朝はこっそり起きてゴルフ場にドロンだし、
最近とみにビールで腹が出てきてるし顔の形崩れてきてるし、
チェスで負けそうになると盤をひっくり返すし、
寝起きは鬼のように悪い。

一度した約束は守るし、どうしても守れなかったら子供にでも謝るし、
自分のやりたいことは誰が何と言ってもやるし、
国家資格をダースで持ってて、まだ毎年なにやら資格を取ってくる。


こんな親父を持った娘は、いったいどうすりゃいいのだ。


私の基盤はしっかりこの親父の確かな強い枠にはめられて、
私はそこから始めるより他にない。
そこから始めて、そうして、私自身の形を作るのだ。
それは、そのような強く確かな枠から始めなければできないことなのだろう。

私の中の頼りないもの、私の中の曖昧なもの、私の中の震える暗いものは、
その確かな枠の中にいるからこそ、腐ることも肥大することも、本体を蝕むこともなく、
この枝にあって、確かに存在することを許されている。
私はそれを正視し、見つめ、肯定し、支配されるのではなく支配するための足場を与えられている。

親父さんについて、私は好きとか嫌いとかいう感想を持たない。
父親だな、と、思う。
私には、父親がいるのだ、と、思う。そうして、母親も。
私は奇を衒わない。私は常識人であることを望む。常に足を地につけていることを。
そうして、遥かに遠くへ行くことを、豊かに生きることを望む。

お袋さんについては、また、書く。


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