終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2001年08月08日(水)

「かつて私はこれまでに踊ったこともないような舞踏を試みた。
 天界の彼方にまで踊って行こうとした…(中略)…
 わたしは舞踏によるのでなければ、最上の事物の比喩を
 語ることができない」
             ニーチェ 『ツァラトゥストラ』より

私が自分のPCたちを創り出すとき、
彼らはあたかも舞踏の一シーンのような構図を伴って出現する。


十塚は、風のある夕暮れ。
大きめのカバンを肩にかけ、昼が夜に場所を変え行く道を歩いてくる。
吹いてくる風に、目を半ば閉じて、心地よさそうに。ひとり、笑う。
他の誰にも聞こえない、他の誰にも見えないものに、行き違う。


ジブリールは、雲ひとつない蒼天の下、真昼。
抜き身の大刀を背に負って、その柄に手をかけて、
たなびく衣の布を感じながら、笑う。吹き付ける砂にも目を閉じることなく。
広がるのは果てのない荒野。膨大な虚空と、虚無。


西川は、深夜、細い月の夜、緑の濃い硝子の温室。
右手を真横に、左手を心臓の上にのせて、長々と横たわる。
目を閉じて眠るよう。植物の伸びる音を聞いている。
深く項垂れた月下美人の白い細長い蕾だけが、見ている。


少年パンダは、赤い、朝焼け。
小さい、傷だらけの、薄汚れた体が、その一瞬にだけ、強ばりを解いて、
空の美しさに見入る。あんぐり、目と口あけて。空腹も寒さも、みんな忘れて。
受け止めたいように、両手の拳が開いてる。


シクリッドは、午前の、光の中。海の上。船の上。
次々突き出されるおかわりの皿を、軽口叩きながら手際よくさばいてゆく。
料理の匂い、荒くれどもの笑う顔、食器の触れ合う音、波。
南国のフルーツと、その底抜けの日差しと、海の匂い。


シヴァスワミーは、闇夜。星の廻りは星座盤のよう。
上半身は裸、腰に布だけまとって、寺院の石段に肩膝立てて座る。
シヴァとビシュヌ、ブラフマンの浮き彫り、その前の供花。
香料と甘くて濃い沙羅樹の香り。一人座る。視線は細く遠方へと擲たれている。


黒洞紫は、月の出の海辺。手には妖刀、閃。さながら地上の三日月。
今し月の上り来る海に向かってわずか斜めに立つ。その手の一方は刃を砂に引き、
もう一方は乞うように、海の彼方へと差し出されている。
風はその巻毛をゆるやかにあやすようにたなびかせ、たなびかせ。


渡会宗一郎は、白衣。診察室。今、客が部屋に入ってきたところ。
顔を上げ、椅子を回転させて半ば振り返っている。手にはペン、カルテ。
来客に、何事か笑いながら言っている。この目は他意を持つことを知らずに笑う。
髪の毛はちょっともさもさだ、傍らのソファで昨夜は寝たのだろう。


佐谷充彦は、薄暗い、無機質な酒場の隅。
薄汚れたコンクリートの壁、カウンター隅のスツール。
片方の膝を引き寄せて、行儀悪くスツールの上に立てて。
子供の顔で、大人の皮肉を笑う。きつい酒精のグラスを引き寄せながら。


北窓圭は、夕刻遅く。スタンドだけをつけた、古い図書館の個室。
山のように積んだ資料を捲りながら、神経質に長い前髪を掻き揚げる。
ノートには蚯蚓ののたくったような文字、本人にしかわからない覚書。
埃の積もったブラインドの窓の外には、遠く柔らかな家々の明かりの灯る。


伊澤朱は、半月の夜。風の強い。水走る山間の谷間。
水に半顔の美貌を映して俯く。月は高く、羽衣めいた雲の円形に輝く。
異形のもの、人外の妖魔を思わせて深いその目は見開かれている。
問うように、わずかに頭を傾げて。


ダスターンは、午後の光の中。傾き始めた金の光、影を落とす。
草原。膝ほどの丈のある草の原。風がその道を開く様も鮮やか。
白髪と焼けた肌の明暗けざやかにして、その目は暗い。
人の身に止まり、人の身に余るものを持つよう、その身を抱える。


レイヴンは、鉄の街灯の下。煉瓦の敷石の上。霧の夜。
手首にのせた鴉を、目の前に運び、悪霊めいて生まれついた顔を隠す。
干からびた左手にはステッキ、流れる霧に黒いコートの翻る。
落ち窪んだ眼窩の底の目は言うよう――メメント・モリ。(←ギャグラー)


マリエはダンシング・ムーン。鏡の前、バーに片手をかけて。
真っ白いチュチュ、お団子だったはずの巻毛はすっかり零れだして肩に背に。
片手を上げる、足は交叉、優雅に。鏡に向かって立っている。
鏡の中の自分に、悪戯するよう、目の中で笑って、口元はつんと尖がり。


クロウは早朝の道を走る。野球帽、Tシャツ、短パン。どれも色鮮やかな。
耳にはウォークマン、響くのは軽快なポップス、足は速い。
通り行くひとには挨拶を、片方の目をつむって。にやっと笑う。
その瞬きは黒い肌と白目のゆえにひどく鮮やかだ。


書いていてふと…………よくもまあ生んだり……。
何人だろう……15人…………。
疲れたよ…………。


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