ケイケイの映画日記
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2021年12月26日(日) 「ラストナイト・イン・ソーホー」




大好きな「プロミシング・ヤングウーマン」を彷彿させました。監督のエドガー・ライトは60年代が大好きだそうで、そこかしこにオマージュが描かれ、楽しく、そして切なく鑑賞。大いに楽しみました。

ファッションデザイナーを夢見てデザイン学校に入学し、憧れのロンドンへと出てきたエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)。片田舎で育ったエロイーズには、派手な寮の同級生とは馴染めず、居心地の悪い毎日を過ごしています。そこでソーホーの一部屋を借りて、一人暮らしを始めます。程なくしてエロイーズは、毎晩60年代に生きるサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)と言う女性とシンクロする夢を見ます。自信家のサンディと共に、眩い毎日を楽しむエロイーズ。しかし、暗転する出来事がサンディを遅い、そこからエロイーズの日常も、不穏な空気に包まれます。

まずは伸び盛りの二人の新進女優、トーマシンとアニャが抜群の存在感です。
手作りのロマンチックな服装で、繊細な愛らしさを醸し出すトーマシンが「花」なら、若々しいゴージャスさで、自分の未来を信じて疑わない自信あふれるアニャは、「華」。対照的な彼女たちが、シンクロして同化していく様子は不思議ですが、「夢」がキーワードになっているので、それ程違和感はありません。共に適役でした。

しかし、その自信溢れたサンディは、ジャック(マット・スミス)の手玉に取られ、売り出すための枕営業だと説得されたのに、いつの間にか娼婦のような扱いに。

前半は眩いロンドンの60年代を楽しみ、後半は一転し、未来を搾取された若い女性の怨念を禍々しく描くホラー仕立てです。

前半の60年代のロンドンの再現が素晴らしい。あんまり知りませんが(笑)。正確に言うと、素晴らしいと感じさせてくれた、かな?私は1961年生まれで、先日亡くなったモンキーズのマイク・ネスミスが大好きで、「モンキーズ・ショー」を幼い頃毎週楽しみに観ていたもんです。その時代の映像の記憶は確かにあり、ファッションや音楽のカルチャー、そしてロンドンの街並みなど、鮮やかに蘇っており、とても楽しめました。客の目に留まるよう、ジャックから踊れと命令され、狂ったように踊るサンディ。「ゴーゴーガール」と当時呼ばれていたのよね。懐かしくも切ない気分に。

マット・スミスが匂い立つような色気を放っていて、すこぶるいい男なんだわ。そりゃサンディ程の自信家の娘でも、コロッと騙されるでしょうよ。スミスって、整ったフランケンシュタインみたいな顔ですよね?(失礼が過ぎる発言。ごめんよ!)ずっとそう思っていたので、「ザ・クラウン」で、美男子で有名だったフィリップ殿下の役を演じていると聞いて、すんごい不思議だったのですが、これなら上手く演じていたのでしょう。

テレンス・スタンプ、ダイアナ・リグ、リタ・ツゥシンハムなど、60年代に活躍した名優たちが、それぞれ重要な役で出演しいています。枯れ木も山の賑わいではなく、きちんと花を添える役柄で、敬意ある扱いに好感が持てました。

サンディも「プロミシング・ヤングウーマン」です。60年前から現代まで、前途洋々であるはずの若い才能ある女性たちの有り様が、ちっとも変っちゃいないのが辛い。この展開にはme too運動が連動されているのを、感じます。サンディの転落を過去の事とせず、今にも通じている事を感じて欲しいです。

もう一人の「プロミシング・ヤングウーマン」のエロイーズは、霊感体質で亡くなった母を良く見るのです。その霊感体質が、禍々しい出来事を引き起こします。亡くなった霊だけではなく、生霊のような霊も。生きている本人の意向に関係なく、エロイーズの部屋には、その生霊の哀しみが充満しているのでしょう。私自身は霊感は全くないですが、旅行に行くと、良く霊を見ると言う人を二人も知っており、この展開にも違和感は有りませんでした。

悪夢に翻弄され、衰弱するエロイーズの行動や主張は、まるで統合失調症のようで、周囲にもそう認識されます。たった一人、彼女に好意を寄せ、心から信じるのが、同級生のジョン(マイケル・アジャオ)。誰も味方のいなかったサンディとの違いは、ここにあります。ある男性(サム・フラクリン)が救いの手を伸べようとした時、拒絶するサンディ。自分を食い物にする男たちとは、違う男性だと感じていたはず。捨て鉢にならず、そんな時は迷わず差し出された手を、握って欲しいと思いました。

あんな事こんな事。散々やらかしたエロイーズが、全くお咎めなしでハッピーなエンディングは、ちと無理がある気がしますが、エロイーズの前途洋々の未来に免じて、一緒に喜びたいと思います。


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