ケイケイの映画日記
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2016年03月19日(土) 「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」




家に取り込み事があって、映画はすっかりご無沙汰です。この作品も2日に観たのに、感想書かずにそのままでした。だいぶ感想は薄れてしまったけど、とても好きな作品なので、書いておきたいと思います。監督はリチャード・ロンクレイン。

ブルックリンに住む画家のアレックス(モーガン・フリーマン)と元教師のルース(ダイアン・キートン)夫妻。結婚40年を迎え、今も仲睦まじく暮らす
二人ですが、最近問題なのがエレベーターなしのマンション5階にある自宅。窓からの眺めがよく、自慢の自宅ですが、アレックスの足腰を心配するルースは、まだ体力のあるうちにエレベーター付きの部屋に引っ越そうと説得します。不動産の仲介業者をしているルースの姪リリー(シンシア・ニクソン)に売却を依頼します。

この二人、子供がいないのですね。私は常日頃から、子供がいなくても何十年と睦まじく暮らすご夫婦を、私はすごく尊敬しています。うちなんか絶対無理(笑)。この作品を観ると、その秘訣みたいなのがわかりました。

アレックスとルースは、当時としては(今もでしょうが)珍しい黒人と白人のカップル。お話はあちこち飛びますが、彼らが幾多の困難を乗り越え、その度に夫婦の絆を強くしていったかが、描かれています。私が注目したのは、その相性の良さ。ルースの定年パーティーで、犬のドロシーをプレゼントしたアレックス。私は子供のいない妻には、きっと生徒たちが子供代わりで、それを知る夫が、生徒の代わりに、犬をプレゼントしたんだと思いました。そしたらその後、不妊で情緒不安定の若き日の妻を、夫が「生徒たちがいるじゃないか」と慰めるシーンが出てきて、あぁやっぱりと。ずっとずっと妻の心の奥底に沈む澱を見守っていたのだと、泣けてきました。ルースのコンプレックスであったろうメガネも意に介さず、ルースはとても嬉しかったと思います。

対する妻は、若き日から、快活でお喋りでチャーミング。今も昔も変わりません。若き日のルースを演じるクレア・ヴァン・ダー・ブームが、よくキートンの台詞回しを勉強していて、全く違和感なくチャーミングなのが、好印象。夫にガンガン意見はするけど、彼女が一貫して守ろうとしたのは、アレックスの人として画家としてのプライドでした。世の中の偏見が強い中、アレックスがアレックスらしく生きられたのは、私は妻のお蔭ではなかったかと思います。

う〜ん、何て素晴らしい!お互いが掛け替えのない、世界中で一番の味方なのです。これら夫婦の軌跡が、さりげない描写の数々で描かれるのですが、私もこの作品と相性抜群であったのでしょう、いっぱい笑っていっぱい泣きました。

家を買いたいレズビアンカップルの苦闘に、かつての自分たち夫婦を重ねるルース。同じ間取りでも、住む人の人生の陰影で、全然別の匂いがするはず。家とは住む人の人生そのものなのでしょうね。

夫婦愛を軸に、テロ騒動、愛犬ドロシーの病気、マンション売買にまつわる狂想曲など、小技の味付けも楽しかったです。特にマンションの売買は、駆け引きで大金が上下する様子など、他人事ながらスリリングでした。

相性と言えば、フリーマンとキートンが抜群の親和性です。我が家の一大事なのだから、会話するシーンがいっぱいですが、それが多分この夫婦は、今も昔も、いっぱい喋っているんだろうなぁと思わせます。現在の自分を描いた絵を見つけたルースが、「この老婆は誰?」と、いたずらっぽく笑うと、アレックスは「うちに老婆なんかいたっけ?」と、これまたお茶目に返す。予告編の「さざなみ」で、「彼女と結婚する気だった」と、言わなくてもいい昔の女の事を、結婚45年の妻シャーロット・ランプリングに告げる夫トム・コートネイに、バカじゃなかろうか?と憤慨していたので、アレックスが夫の鑑に思えました(笑)。

ちなみにうちは「もちろん」トム・コートネイです。お蔭でワタクシ、この作品で初めてモーガン・フリーマン萌えしてしまいました。キートンも若い頃からセンス抜群のファッションで、知性的でチャーミングな人でした。年齢を経ても、女性はいつまでもチャーミングでいられるんだなと、また一人お手本が出来て嬉しかったです。

それにしても、昔は底辺の象徴だったブルックリン。「ブルックリン最終出口」なーんて、悲壮な作品もありましたっけ。この作品で観るブルックリンは、お洒落で住んでみたくなる「眺めのよい」街でした。大昔の固定概念は捨てて、未来を観て歩こうと言われている気がします。




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