ケイケイの映画日記
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2015年04月24日(金) 「セッション」




ホラーかと思いました(笑)。手に汗握るし、展開の先は読めないし、確かに面白い作品です。でもそれはサスペンスフルな部分が大きく、そこにスポ根的な爽やかさや、厚みのあるヒューマニズムを見出すのは、ちょっと違うかなと個人的には思います。監督はデミアン・チャゼル。本年度アカデミー賞助演男優賞(J・K・シモンズ)受賞作。

一流のジャズドラマーを目指して、名門の音楽大学シェイファー音楽院に入学したニーマン(マイルズ・テラー)。実力者のフレッチャー教授(J・K・シモンズ)の目に止まり、彼のバンドに誘われたニーマンは有頂天になります。しかしフレッチャーの指導は、厳しさを通り越してまるで狂気の沙汰。フレッチャーの理不尽な罵声やしごきに耐えるニーマンでしたが・・・。

噂に聞いていたシモンズのキャラは、確かにキューブリックの「フルメタル・ジャケット」のR・りー・アーメイを彷彿させる鬼を通り越した狂気の人物。口汚く演奏と何も関係のない事柄まで罵る様子は、昨今流行り(?)のモラハラの典型のよう。

まぁ前半は良いのです、ここから耐えに耐えたニーマンの成長した姿が観られるのだと予想したから。しかし期待を裏切り続けるニーマン君、フレッチャーの気ちがいじみた指導を一つ一つクリアして行くにしたがい、彼まで鼻持ちならない尊大な男になっていく。予想を覆すこの展開に、へっ???となりましたが、以降も続々先の読めない展開が待っていて、その度にこちらも混乱。これはニーマンの焦燥に、こちらが付きあったからなのでしょう。この辺はすごく面白かったです。

鬼か〇チガイがと思うような、胸糞悪いフレッチャーが、時折見せる人間臭い表情と穏やかな眼差し。おぉ、きっとこれが彼の本質なのね、やっぱり厳しさはニーマンのためだったんだよ!と思うと・・・(笑)。オスカー受賞のシモンズは、確かにすごく上手かったです。狂気と狂気の間に垣間見せる柔らかい表情など、本当の最後まで観客を煙に巻きます。本当はどんな人なのか、未だにわかんないもん。

確かにラストの展開は圧巻で、服従からの展開は鮮やかですが、立場が逆転しただけです。それでいいのか?クラブ活動などで同じような事柄が起こって、これは指導だ、本人の素質を開花させるためだと、フレッチャー側の人が人本気でそう思ったなら?私は違うと思います。あれだけ人を貶め傷つけ、尊厳をめちゃくちゃにするのが、指導だとは思いません。フレッチャーはいくら名指導者だとしても、人格は破壊された人だと思います。

私は某大阪の体育系の高校で自殺者を出した事件や、女子柔道の指導者のモラハラ事件を思い出しました。この映画を引用して、これは愛情だ指導の一環だと言うのは、私は決して認めたくないです。

それより私が感銘を受けたのは、ニーマンのお父さん。母が出奔し、息子を男手一つで育てて、普段は本人の自主性に任せるも苦境に陥ると、矢面に立っても息子を守ろうとする。その後見解が違っても息子の意見を尊重し、失敗したら抱きしめて、そしてまた見守る。親の理想を観た思いです。ニーマンの最後の逆襲は、世界中が自分の敵でも味方してくれる人がいる、その安心感が、彼を奮い立たせたと思いました。

シェイファーはバークレー音楽院がモデルかなと思います。世界的に著名な学校ですが、それでも二流の大学の体育会系より下に観られるのですね。あれはニーマンの僻みでは、ないでしょう。

観ている間はとっても面白いけど、消化不良のカタルシスだったのが残念。サスペンスとして見るなら、OKの作品です。


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