ケイケイの映画日記
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2015年03月13日(金) 「ソロモンの偽証 前篇 事件」




宮部みゆきの全六巻の大長編が原作。子育て経験のある者からしたら、とてもリアリティのある画面が繰り広げられ、懸命に真実を追求する中学生たちの、純粋でまっすぐな面差しが、眩しく輝いている作品。監督は成島出。

時代はバブルの頃。雪に覆われた中学校の敷地内で、同中学の柏木が転落死いているのが見つかります。第一発見者は同級生の藤野涼子(藤野涼子)と野田(前田航基)。警察は自殺と判断しますが、同級生が殺したとの怪文書があちこちに届き、学校は混乱。その後次の死が起こり、業を煮やした生徒たちは、自分達で裁判を行い、事実を究明しようとします。

この手の作品では、年齢のずっと上の俳優が中学生を演じる事も多いのですが、この作品はほぼ役柄と同年代の無名の子役たちが演じ、それがとても新鮮です。ほぼ素人に近い子も多数ですが、みんなびっくりするほど自然な演技。主演の藤野涼子は、この年齢に似つかわしくない落ち着きと、背筋の真っ直ぐな理知的な雰囲気が、たくさんのライバルから選ばれただけある大物っぷりです。主演として堂々の存在感で素晴らしかったです。

事件に翻弄され、学校も警察も当てにはならないと、自分たちで真実を知ろうとする生徒たち。う〜ん、素晴らしい自立心。固唾を呑んで見守るとは、この事かと思う程、中学生たちの日常を追っただけなのに、ものすごい緊張感が持続します。涼子の「血だらけの心」と言う台詞が心に残ります。大人になると、血が噴き出すと修復が難しいけど、中学生は、まだ自力で治して、人生の糧に出来る年齢です。

でも優等生だった娘(涼子)が裁判で真実を追求したいと母(夏川由衣)に相談すると、「いいの?学校に反抗して内申書に響くよ。志望校目指して学級委員もずっとやって、勉強頑張ってきたんじゃないの?」と言う台詞に、本当に胸が突かれます。観ている分には、涼子たちを応援出来るのですが、これが我が子なら、このお母さんの言う通りなんです。中学校って何なんだろう?我が子が中学生だった時は遠い昔なのに、今更ながら考え込んでしまいました。

私も大人になった子供たちから、中高生の時の出来事を聞き、私はいったい子供の何を観ていたんだろう?と、その節穴っぷりに、情けなくなる時があります。そういう親の至らなさを容赦なく映す画面。しかし分岐点に来て、それぞれ違う方向に向きだす親たち。子供の自立心が芽生えた時、親はどう対処するのか?信じて見守る。これがどんなに難しくて大変な事か、この作品を観ても、子供にはわからないだろうなぁ。

父親・夫から妻子への暴力、男子から女子への暴力、教師から生徒への暴力。この作品は暴力に溢れています。不承不承でも、それは暴力ではないと、言い訳が通った時代なんだと痛感します。そう思うと、今の時代は良い時代です。

色々な謎を含んで終わった前篇。次に繋げる壮大な予告編としては、上々の出来だと思います。後半で「真実」は解明されるのか?原作を読むのは、後編を観てからにしたいと思います。


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