ケイケイの映画日記
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2015年01月13日(火) 「トラッシュ!この街が輝く日まで」




素晴らしい!今年一発目が不発だったので、映画初日の出の気分。ブラジルのスラムを舞台に、走り出したら一瞬たりとも立ち止まらない、馳走感と躍動感が素晴らしい!追いつ追われつ、謎解きを絡めてのスリルや、少年たちのムササビかい?と思う程の身体能力を愛でながら、段々と愛が胸いっぱいに広がる作品。監督はスティーブン・ダルドリー。そして脚本はリチャード・カーティス。

ブラジルのリオデジャネイロ。ゴミの山で働く三人の14歳の少年たち、ラファエル(ヒクソン・デヴェス)、ガルド(エドゥワルド・ルイス)、ラット(ガブリエル・ワインスタイン)。そのゴミの山でラファエルが財布を拾います。警察が血眼になって懸賞付きで財布を探しているのを知ると、汚職にまみれた警察は信用出来ないと、財布に残されたヒントを頼りに、三人は自力で財布の秘密を追いかける事に。その秘密には、国を揺るがす大事件が絡んでいるとは、三人とも知る由もありませんでした。

冒頭、ゴミの山で宝探しのように使える品を漁る彼ら。しかしその姿からは、私たちの可哀想だとか、不潔だとかの同情を跳ね返す、逞しさがいっぱい。とにかく生命力に溢れています。彼らに親はなく、アメリカから布教に来ているジュリアード神父(マーティン・シーン)と、ボランティアのオリヴィア(ルーニー・マーラ)が親代わりとなって、たくさんの子供たちの世話をしています。

子供たちは決して清廉潔白ではなく、自分たちの信じた目的を達するためなら、嘘もつくし盗みもする。しかし警官や政治家が、これでもかと悪徳なので、手段を択ばないその一途さは、痛快であり爽快。縦横無尽に町を駆け回る向う見ずな気骨は、それでこそ男の子だ!と、大向こうから声をかけたいほどでした。

私の大好きな「シティ・オブ・ゴッド」も、ブラジルのスラムが舞台でしたが、あちらはブラジル人のフェルナンド・メイレレスが自国民に現実を突きつけたのに対し、イギリス人のダルドリーとカーティスは、ブラジルの腐敗と貧困が、如何に子供たちを劣悪な環境に置いているか、外にいる私たちに知らせています。

悪徳警官にラファエルが連れ去られた時、ガルドは真っ先に神父を頼ります。「神父さんなら何とかしてくれる」。あるものを届けに協力者が必要な時は、オリヴィアに頼みます。大人の定義って何なのか?私もよくわかりませんでしたが、この作品を観てはっきりしました。それは子供から信頼され守れる人、「正しい事」を教えられる人だと思います。

喰うや喰わずの貧困を自分たちと共にし、信仰心と勉学を教え伝える神父とオリヴィアは、少年たちに立派な大人として、認めて貰えたのですね。そしてその信仰と勉学が、彼らの命も救いもしました。

私が感心したのは、少年たちが食べ物からお金まで、得たものを全て分け与え共有した事です。独り占めにしようとしたのは悪徳の大人ばかり。いやいやだから、独り占めしたかった人は、「大人」じゃないのよね。危機一髪の状況で少年たちを救ったのは、同じ貧困層の少年少女たち。この団結心が、未来を動かすと信じたい。

ラファエルの口を割らそうと、凄惨な拷問を加えた警官に向かって彼が放った言葉は、「あなたに神の御加護を」でした。怒りに震えていた私は、憑き物が落ちたような気分になります。多分に強烈な皮肉も込められたはずのこの言葉は、しかしラファエルの信仰心の強さも表すものです。そしてこの言葉の顛末は、神がラファエルに御加護を与えました。正しい信仰心には、強靭な心も宿るのですね。神の使いでラファエルにご加護を与えた人にも、祝福を。

娯楽作としても、謎解きミステリーとしても、社会派としても、アクションとしても、そして児童映画としても超一級品。そしてとにかく面白い!彼らには、神父もオリヴィアも待っているよ、と伝えたい。ラファエルたちがブラジルの未来を変えるのだと、熱い心で見守りたいと思います。私も今更ですが、しっかりした大人になるぞと、誓いながら。


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