ケイケイの映画日記
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2015年01月20日(火) 「滝を見にいく」



7人のおばちゃんが滝を見に行き、遭難。私がドストライクの年齢のためか、あぁただそれだけなのに、あれもこれも感情を刺激され、涙まで流してしまった(笑)。オーディションで選ばれた、プロアマ混合のオバちゃんたちが大活躍する、ユーモアいっぱい、とっても愛しくなる作品です。監督は沖田修一。

紅葉を愛でながら幻の大滝を見て、その後秘湯の湯に入ると言うバスツアーに参加した79歳から44歳までのおばちゃん7人。ところが頼りないガイドが道に迷ってしまい、彼女たちを残して確認に。中々戻ってこないガイドを探しに行った彼女たちですが、結果ガイドとはぐれる事に。どこをどう彷徨っているかもわからず、どんどん日は暮れてくる。さぁ、どうするおばちゃんたち!

と言うストーリー。友人と参加している人、一人で参加している人の混合で、基本は知らない人同士です。前半はダラダラとオバちゃんたちの紹介を兼ねて映しているだけのようですが、この時の印象と後半遭難してからの彼女たちの印象は、ガラっと違います。

軽いハイキングがてらのつもりだったおばちゃんたち、軽装で荷物も少ない。どうサバイバルするのか?と思ったら、最年長の師匠を軸に、火を起し食料とアイデアを出し合います。

いがみ合ったり慰めあったりしながら、覚悟して今晩はここで野宿だ!と決めてからの彼女たちは、女同士の連帯感でいっぱいです。その時歌ったのが、奥村チヨの「恋の奴隷」。えぇ!と最初思いましたが、段々晴れ晴れとした笑顔になる彼女たちを見て、とっても腑に落ちました。若い頃はこの曲のように、おばちゃんたちも「あなた好みの〜♪」と、身を焦がすような相手がいて、情熱に身を任せていたはず。

ところがそれから数十年、恋しい男は私を置いて先に死んじゃったり、定年で家でゴロゴロ、鬱陶しいたら、ありゃしない。離婚してほかされたりほかしたり、果ては不倫の私を捨てて行く!もうね、7人7色ですよ。花も嵐も踏み越えてどころか、わたしゃ風雪ばっかりよと、思っていた人もいるかも?でもね、滝を見に来たんでしょう?時間の余裕は?お金は?自分で払えるって幸せよ。夫の甲斐性でも娘の思いやりでも、どちらも幸せ。国破れて山河あり。その山河は自分なわけで。そう思うと、どうにかなるわよと思えるのでしょう。だって独りじゃないし。

もう一つとても心に残ったのが、一番大人しそうだったジュンジュン@66歳のサバイバル力(りょく)。ぶどうの枝やその辺の花でリースを作り、食べられそうなクルミを見つけ、雑草で遊びまで考えちゃう。危機感満タンの中、空間に潤いを作っている。お蔭で皆は、段々と明るく前向きに落ち着いてきました。私が内科の診療所で勤務していた時、80過ぎのお婆ちゃんと仲良しで、よく話をしていました。50過ぎた息子さん二人との三人暮らし。「私一日でも長生きしたいねん。男二人やったら、家に潤いがなくなるやろ?」。

そうなんだ。若い頃は職場の花と言われ、結婚しては家庭の太陽となれと言われるのは、女性はその場所に潤いを持たせる力があるからなんですね。これは女性の特性なのだと思う。私はちゃんと出来ているのかな?と、反省しました。女に定年なし、この特性を放棄するのは勿体ないですよね。

セッキーとユーミン。対照的な涙を流す二人を包む、熟年女性たちの思いやりは、それでこそ女の風雪を超えた者だけが出来る、値打ちあるものでした。

そうそう、「恋の奴隷」ね、歌ったのは二番だったでしょう?一番は「悪い時は〜どうぞぶってね〜♪」なんてあるのでね、幾らなんでもコード的にも現代の心情的にもNGですね。監督が使いたかったのは「あなた好みのぉ♪」でしょうね。昔は確かにそういう価値観があったもの。でもこれは「私」がなりたいんであって、主語は「私」なのです。同じ奥村チヨのヒット曲の「終着駅」も名曲ですが、「哀しい女のふきだまり」だとか「過去からにげてくる」だの、歌詞だけ聞いてれば、絶望的(笑)。その点「恋の奴隷」は、男に依存しているようで、別れたら次の人的バイタリティーを感じるなぁ。

おばちゃんたちの背景に、男性の影が透けて見えるのも良かったです。例え夫でなくてもね。人気の沖田監督作品と言う事で、男性一人客もたくさんでした。この手のサバイバル力は、男性の方がずっと上手。それも男性の特性かな?俺なら一か月楽しく暮らせるぞ〜と思った方も多いはず。子供たちが小さかった時、「お父さん、すごーい!」とキャンプ場の夫の雄姿に、家族全員で拍手した日が懐かしい。監督、おばちゃんの次はおじさんで、「山を見にいく」をお願いします。


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