ケイケイの映画日記
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2015年01月11日(日) 「マップ・トゥ・ザ・スター」

明けましておめでとうございます。 今年もどうぞよろしくお願い致します。


お正月の三日に観ました。安藤サクラの「百円の恋」と散々迷って、好きなのがクローネンバーグの方なのでこちらに。まぁ〜正月早々から不愉快な奴ばっかり出てきて、好きな人なんか一人もいない(笑)。ハリウッドの内幕を、クローネンバーグならどう料理するか?興味津々だったけど、毒々しく野次馬的なだけで終わっちゃったなー感です。内容もそれほど面白くないけど、それでも飽きずに観られたのは、演技陣の頑張りのお蔭でした。監督はデヴィッド・クローネンバーグ。

ハリウッドに住むワイス家。父スタフォード(ジョーン・キューザック)はセレブ相手のセラピスト。息子のベンジー(エヴァン・バード)は子役として人気者。母のクリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)はそのステージママ。絵に描いたように幸せなはずの一家に暗い影を落とす、顔に火傷の痕がある少女アガサ(ミア・ワシコウスカ)が、ハリウッドに舞い戻ってきました。落ち目の女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)は、知人の頼みによりアガサを秘書に雇入れます。ハバナがスタフォードの顧客だった事から、アガサがハリウッドに戻って来たことを知ったスタフォードは、アガサを追い出そうとします。

皮肉や毒は効いているんです。「ハリウッドでは男の子役の薬からの立ち直りは、歓迎されない」とかね。確かに名だたる子役たち、薬とアルコールに堕ちて行く一方ですが、女優のドリュー・バリモアだけは不死鳥の如く蘇り、過去なんかなかった事みたいです。ただ描くのが毎夜のパーティー三昧だけで、ハリウッドのシステムがベンジーを蝕んで行くと言う様子が見えない。昔の自宅の火事が、彼の心に傷を残しているのでしょうが、その事と家庭の秘密が、ベンジーを追いつめている感も少ないです。なので子役の哀しみと言うより、年下の子役に嫉妬したり、大人に悪態ついたり、ベンジーが元々性悪の子に見えるわけ。

女優だった母親クラリス(サラ・がドン)に虐待されて育ったハバナは、あえてクラリスを描く作品で母を演じる事で、その事を乗り越えようとする。この辺は共感出来るんですが、彼女は明らかに神経を病み、グロテスクな振る舞いは、観客の同情より見世物的な興味を惹くはず。これは計算通りかな?

如何わしいセラピスト、薬に頼る二世女優は早逝した母親の亡霊に怯え、子役の息子は13歳にしてヤク中。そして謎めいたアガサの火傷の秘密は?と、何重にも折り重なったお話が、一つの結末を観ますが、だからどうした?的な感じ。火事や亡霊がモチーフになっているのでしょう、でもそれがイマイチ上手く絡みません。原作者がモデルの役の、タクシードライバー役ロバート・パティンソンも、狂言回し役なはずなのに、別にいてもいなくてもいい感じ。なのでスキャンダラスな印象だけが残り、哀切感がありませんでした。

ただ一つ一つのプロットは印象的。主にハバナで、ライバルの子が急死し、役が転がりこんできた時の乱舞、若い子たちとの3Pなど、動物的で浅ましい限り。そして親からの虐待をテレビ番組で告白するに至っては、なんだかなぁと、ため息。これは日本でも良く行われている事ですが、こういう事って、私はこんな悲惨な過去がありましたが、今はそれを克服して普通の生活を営んでいます、と言う人が告白してこそ値打ちがあるもんじゃないかな?現在進行形で奇行に走っている人が、私をわかって!と告白しても、冷たい目で見られるのがオチじゃないかと。これはそれをわかっていて、監督がショービズの世界へ皮肉で挿入したと思っています。

そんなハバナはモンスターと形容されますが、真のモンスターはスタフォードでしょう。家庭の秘密をねじ伏せ、お蔭で妻は神経を病み、子供は壊れ、非情なものです。それもこれも名声とお金のため。なのにあのあっけないオチの付け方はないでしょう。もっと制裁を加えなきゃ。そう思えば、ハバナは可哀想だったなぁ。

ジュリアンを絶賛する声が多いけど、彼女は昔から上手いからね。でもファンとしては、いくら年齢を感じさせないスタイルだとして、もう裸だの3Pだの、50半ばの彼女にはしてほしくない。もちろん今回のイタさも計算のうちでしょうが、それでも見たくないなぁ。もっと繊細に50代の女心を映す、メロドラマの彼女が観たいです。

終始仏頂面のミアは、今回とても不細工で(笑)、改めて演技派だなと感心。脚本の描き込み不足で、アガサも魅力的なキャラには成り得なかったけど、そこを何とかするのが一流女優だと思うので、頑張って欲しいです。邪悪なのに天使のように清楚なサラ・ガドン、不愉快極まりない小童を好演したエヴァン、最近昔の好青年どこへやら、気持ち悪さが持ち味のキューザックも良かったですが、私が一番役柄を的確に表現していたのは、オリヴィア・ウィリアムズだったと思います。彼女のみ、心の底から同情しました。

と言う風に不完全燃焼のまま終わった作品。そのお蔭か、観た日の晩に私が発熱しました(笑)。私は全然わけわからんけど、「裸のランチ」の不条理さが大好きで、その他「Mバタフライ」や「ザ・フライ」などの、奇妙奇天烈なのに、深々と滑稽で哀切が広がる作風が好きでした。私が読み取れなくなったのか、クローネンバーグが変わったのか?どちらにしても残念です。





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