ケイケイの映画日記
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2014年08月13日(水) 「マダム・イン・ニューヨーク」




皆様お久しぶりです。実は四年ぶりに就活しておりました。一か月ちょい頑張って、希望の仕事をゲット。心の平穏を取り戻して選んだ作品がこれ。もうこれでもか?の「主婦あるある」のオンパレードを描きながらも、古風でお洒落、そして女性だけではなく、普遍的な人間としての誇りも描いて、とってもとっても素晴らしい作品。監督はガウリ・シンディ。

インドに住む貞淑な専業主婦のシャシ(シュリデヴィ)。夫と二人の子供の世話に明け暮れる彼女の楽しみは、インドのお菓子ラドゥを作る事。彼女のラドゥは評判、口コミで仕事として注文を受けています。しかし家族で唯一英語を話せない事を、夫だけではなく思春期の娘にまでバカにされ、家族を愛しながらも、敬意と尊重のない日々に憂いを感じています。そんなある日、ニューヨークに住むシャシの姉から、姪の結婚式の手伝いに来て欲しいと電話が来ます。初めて海外に出ることに怯むシャシですが、結局行くことに。しかし英語が喋れない事で屈辱を味わった彼女は、一念発起し、英語学校に通う事にします。

シャシの家庭はインドでは裕福な恵まれた部類でしょう。しかし夫は美しく家族を愛する「だけ」の妻で充分で、妻に人としての成長など必要ないと言わんばかり。ホワイトカラーのエリートっぽい夫は、しかし娘の教育には熱心です。この矛盾。この夫は決して悪人ではなく、妻を愛しているのもわかります。夫は多分インド社会のスタンダードなのでしょう。

賢母である母を侮辱し暴言吐き放題の娘。甘えているのでしょうが、観ていて横っ面を張り倒してやりたいわ。これは父親を通じて母を観ているのでしょう。そしてシャシも、娘が学び成長している姿を観るから、今の自分を顧みて空しくなるのでは?「勉強なら教えられる。でも思いやりの心は、どうすれば教えられるの?」」と、苦悩する彼女に、思わず貰い泣きしてしまいました。

ニューヨークで英語を学ぶ様子が、生き生きとして素晴らしい。本来学ぶと言う事は、心に活力を与え自分に自信をつける事なのだと、シャシだけではなく、他の人種の坩堝であるクラスメートを観て感じます。

いい味だしている英語学校の先生は、実はゲイ。その事で囃し立てる生徒たちを諌めるシャシ。傷つく心は、誰もいっしょだと。主婦である、女性であると言うだけで、家族に尽くしても感謝されることのない日々に鬱屈を抱える彼女だからこそ、人の心の痛みがわかり、平等・対等である事に敏感なのでしょう。

主婦が変化したり成長したいと思うと、必ず魔が入るもの。それは実は家族が多いのです。遊びでもないのに、それでも母親か!妻か!と叱責を受けなくても、自らその機会を放棄し、家庭を選ぶ女性の気持ちを、世の家族は知っているんでしょうか?

シャシも自分に一番大切なのは家族と、諦めようとするのを応援したのは、下の姪でした。姪は生まれも育ちもニューヨーク。インドより女性が解放された土地で育った姪は、シャシに「叔母さんはラドゥを作るためだけに生まれたんじゃないわ。もっと他の特性がある」と、シャシを陰から支えようとする姿が清々しい。女同士はこうあるべきです。姪の思考は、働く母親を支えた、フェミニストの亡き父親から学んでいるのでしょう。シャシの娘とは対照的で、環境や親の思考が如何に大切か、物語っています。

シャシを演じるシュリデヴィは、撮影当時50歳だそうですが、ウッソ〜の美しさ。何でも人気絶頂の時に結婚出産のため引退し、この作品が15年ぶりの復帰だとか。若い頃は踊りも名手だったそうで、この作品でもインド映画らしく、唐突に歌や踊りが入るのですが、違和感なく往年の姿も披露しています。

こんなに美しく上品で健気な奥様、ほっとかれる筈もなく、彼女に恋する男性も出てきます。はてさてシャシの心模様は?どういう展開になるのか?私はシャシもフランス人のローランには、心惹かれていたと思うなぁ。この展開も彼女の魅力5割増しで、欧米や日本の映画とは一味違いました。

予告編でもチラッと出てくるシャシのスピーチは圧巻。英語で長年結婚生活を送ってきた妻の気持ちをきちんと伝え、姪へ幸せな結婚生活を示唆する内容でした。心から彼女に敬意を表したくなります。映画でたくさんのヒロインを観てきましたが、五本の指には入る素敵なヒロインでした。

主婦経験のある人ならば、シャシの姿のどこかに、必ず過去・現在の自分を発見するはず。そして必ずや未来の自分に期待したくなるはずです。シャシが飛行機で隣り合わせた、飄々としたユーモラスな知的な老紳士は、シャシに「初めては人生で一度だけ。初めてを楽しみなさい」と言いました。そうなんですよねー。この歳になっても未経験の事だらけ。私もシャシを見習って、残りの人生尻込みせずに、飛び出していきたいです。


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