ケイケイの映画日記
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2014年06月28日(土) 「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」




お子様向けの作品を何故行定が監督?そして主演は今更感のある芦田愛菜。別に見なくてもいいかと思っていたけど、ロケは大阪だし、評判がすごく良いので観てきました。観てびっくり。子供たちの日常をアハハと笑いながら、平易な言葉で、素朴に哲学出来る作品でした。素晴らしい!監督は行定勲。

大阪の団地に住む小学校三年のこっこ(芦田愛菜)。毎日お父さん(八嶋智人)、お母さん(羽野晶紀)、おじいちゃん(平幹次郎)、おばあちゃん(いしだあゆみ)、三つ子のお姉ちゃんたち(青山美郷・三役)と、円卓で食事を取っています。親友のぼっさん(伊藤秀優)たちと、毎日元気いっぱいに暮らしていています。ある日、お父さんから、お母さんに赤ちゃんが生まれる事が発表されますが、何故かこっこは素直に喜べません。

大阪弁がイントネーションも扱い方も完璧なのに感激しました。キャストは平幹次郎以外は隅々までリアル関西人を配して、抜かりなし。大阪弁は時にどぎつい表現になることもあるし、「てにをは」の接続詞を抜いた日常語も茶飯です。夏休みのウサギ小屋の世話に、ぼやきまくる性格のきっつい五年生女子の事を、こっこが「あの女、生理やな」と言った時は、場内大爆笑。「あの子」でもなく「あの女子」でもなく、「女」(笑)。でもあの間合いでは、まぎれもなく「女」で正解。ラストでちょこっと出てくる水商売の風女性の谷村美月の事を、三つ子がボソッと「化粧濃いおばはんや」と言った時も爆笑。とにかくツッコミが正し過ぎ。三つ子の名前を間違えてばかりのおばあちゃんは、「同じ顔やねんから、どっちみちいっしょや」と、豪快な事。コテコテではない、毒があって楽しいリアル大阪が楽しめます。さすが在阪テレビ局全てが協賛ですな。

三年生は、多分男子と女子が共にてらいなく遊べる、最後の学年だと思います。まず体。成長の早い女子は保健の先生からブラジャーを薦められ、イケメンの担任(丸山隆平)にはスリスリ。きっと同級生男子なんて、子供過ぎてストライクゾーンから外れているんでしょうね。しかし母(中村ゆり)の涙を見た朴君が「守りたい人はいる」ときっぱり言ったり、こっこの辛い告白を聞いたぼっさんが、「僕が傍におれんへんかって、ごめんな」と涙する姿は、男としての萌芽です。無邪気な子供時代から、徐々に思春期に向かう複雑な時期であることも、きちんと描けています。

担任が「子供の考えていることは、さっぱりわかりませんわ。僕も子供やったはずやのに」のセリフが、とても印象的。こっこは物もらいの眼帯、ボートピープルや在日韓国人の同級生、ぼっさんの吃音まで、「人と違うことはかっこいい!」と言う、毒舌家で独特の感性の持ち主。かっこいいから真似をする。しかし大人からは理解されず、たしなめられる。本人にしたら、理不尽ですよね。

そのもやもやした気持ちを、ぼっさんにぶつけて聞いてもらう、夜の団地の下での会話が秀逸。二人を見守るためついてきたおじいちゃんに、友達の気持ちを想像する=イマジンを教えて貰った、こっことぼっさん。子供は子供なりに、今の自分を模索しているのですね。今になって思うのですが、子供の躾なんて、すごくシンプルなものなのに、あれもダメ、これもあかん、小言ばかりの母親であったなと、思わず自分を振り返り反省しきりでした。

幼稚園を卒業したら、子育てに一番大事なのは、このおじいちゃんのように、「見守る」事なんだと思います。目の前にある危険を取り除いて歩くのではなく、道に迷ったら、声をかける。ヒントを出す。自分で考えさす。時には救命救急士にもならなくちゃ。見守るという行為は、親としての技量を試されている事でもあります。今なら上手く出来るのに。あぁ、昔に戻りたいなぁ。

私が一番印象に残ったのは、変質者に襲われたこっこが、誰にも言えず鬱屈を抱えて家族にあたるシーンです。作品内ではシュールに描かれていますが、これは性犯罪を表していると思いました。恥ずかしさと怖さが怒りとなって、マグマのようになったこっこ。こんな愛情に満ちた家庭の子でも、親に言えないのですね。いじめの被害者でもそうでしょう、子供には子供のプライドがあるのです。子供に異変があるときは、ただの反抗期と捉えず、注意しなければいけませんね。

私はこまっしゃくれた子役は苦手で、正直愛菜ちゃんもイマイチでしたが、この作品は、彼女の演技力あってのものだと、痛感しました。とにかく上手い!生まれは兵庫の彼女、今は東京に引っ越して関西弁は忘れてしまったそうで、猛勉強したとか。見事な主演女優ぶりでした。他にも子役たちが素晴らしく、嫌味な子が一人もいない。特にぼっさん役の伊藤くんの素朴さには、感激しました。大阪の子は、どぎついだけではありませんのでね、あしからず。関ジャニの中で、私はこの作品の丸山隆平が一番好きなのですが、中堅になりかけの若手の教師の雰囲気が出ていて、良かったです。こんな先生やったら、きっとお母さんたちも足繁く学校に来てくれそうですね。

「人と違うことはかっこいい」。これは他者を尊重するという事。「赤ちゃん生まれるのが嬉しなかったら、別に喜ばんでもええ」と言うぼっさんのアドバイスも、同じですね。そして同級生の幹さんの気持ちをイマジンした二人。紙吹雪で応える幹さんの笑顔を、ぜひ覚えておきたいと思います。

この家に育ち、友達と過ごしたひと夏の事、覚えておいてね。大人になって苦しいとき辛いとき、きっとこっこの人生の糧になる日々だと思います。とにかくずっと笑顔で観ていました(たまに泣く)。観た後、元気いっぱい心が豊かになる作品。




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