ケイケイの映画日記
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2014年06月29日(日) 「渇き。」




大好きな中島哲也監督作。今回はバイオレンス描写がすごいと聞いていましたが、大流血大会で、韓国映画かと思いました(笑)。その他、体臭や汗など、すえた臭いが画面から匂ってきそう中、どす黒い馳走感で一気に描きます。ろくでもない狂気の塊のような人たちばかりが出てきますが、何故か嫌悪感はなく、最後まで面白く観ました。

数年前まで刑事だった藤島(役所公司)。妻桐子(黒沢あすか)の浮気相手を半殺しにして、刑事を退職。その後離婚し、今は警備員として独り暮らしです。コンビニで殺人事件が起こり、発見者の藤島は証拠もないのに犯人扱いされ、苛立ちます。時を同じくして、桐子から二人の一人娘の加奈子(小松菜奈)がいなくなったと電話があり、駆け付ける藤島。加奈子の部屋から覚せい剤が発見され、藤島は娘探しを決意します。

まぁとにかく藤島が(笑)。どうしようもなゲスっぷりで、狂犬のようです。女も平気で暴力ふるうわ強姦するわ、もうやりたい放題。元は妻の浮気が原因の離婚なので、同情されてもいいはずが、この夫ならそりゃ浮気もしたくなるわと、同情すら湧きます。でも娘の日常は全く知らないようで、友人も知らないし、神経科で眠剤をもらっていたのも知らないと、桐子も褒められた母親ではないようです。

キャッチコピーは「愛する娘は化け物でした」。容姿端麗で成績優秀の加奈子の、裏の顔がどんどん明るみに出てくる描き方が上手い。友人たちと言うのがまぁ、軽薄ここに極まれりと言う感じの頭の軽さと常識のなさで、大人舐めてんのか!と一喝したくなるほど。親と娘の乖離を端的に表していたと思います。不良たちのパーティーの大音量の音楽といかがわしさ、それでいて煌びやか様子は、とても蠱惑的。中島監督の真骨頂の気がします。

とにかく派手な暴力と流血場面の連続で、危機また危機でも死なない藤島(笑)。ツッコミと言うより、あぁ映画なんだと、良い意味で割り切って楽しめる作りです。しかしそのせいか、全ての登場人物に、動機づけや人物の掘り下げが希薄になった気がします。あんな濃いキャラの藤島でさえそう。中島作品は、今まで原作をどんなに大胆に脚色しても、その部分はきちんと押さえていたので、ここは少々物足らないです。だから観終わったあと、あぁ面白かったと思えても、後には何も残りません。それでも役所公司をはじめ、華もあって腕もある役者を集めたお蔭で、描きこみ不足は、それなりにカバー出来ていたと思います。

加奈子の堕ちていく理由も、あの描き方だけだと、弱いかなぁ。ここは原作でもそうらしいのですが、ばっさり刈り込んで、見え隠れする両親への不満が高じて、大人に対しての憎悪になった事を、もっと描きこんだ方が問題定義にもなって、良かった気がします。

加奈子を演じる小松菜奈は、清涼飲料水のCMで、お花畑や砂浜を爽やかな笑顔で走っているのが似合いそうな、超美少女でした。とにかく存在感が素晴らしい。この作品の加奈子は、心の闇とか言う部分はすっ飛ばす、常人の頭では理解出来ない、生まれながらのモンスターとして描いていたと思います。あの美しさの中身は、実は空洞なんじゃないかとも思わせ、感情のない怖さを感じさせ出色でした。今を時めく橋本愛も二階堂ふみも出演しているのに、際立っていたのは彼女で、監督のほれ込みようがわかります。

またまた娘への性的虐待を匂わせた場面がありますが、あれは映画では寸止めだったと、私は思いたい。その方がラストの描写を、純粋に子供への愛と受け取れるから。刺激的なプロットと画面の割には、内容は軽いです。娯楽作として、私はまずまず楽しめました。


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