ケイケイの映画日記
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2013年12月30日(月) 「ブランカニエベス」




「ブランカニエベス」とは、スペイン語で白雪姫の事。童話の白雪姫をモチーフにしたモノクロ、サイレント映画です。スタイリッシュで躍動感があり、ラテンのパンチの効いたBGMとの親和性もバッチリで、完成度抜群の作品です。ですが、私は脚本に引っ掛かりがあり、手放しで絶賛とは行きませんでした。すごく楽しみにしていた作品なので、とても残念です。監督はパブロ・ベルヘル。

1920年のスペイン。美しい母と天才闘牛士アントニオ・ビヤタの娘カルメン。しかし父ビヤタは、猛牛に突かれて瀕死となり、その光景を観ていた母は産気づくも、カルメンを産み落とした後、亡くなってしまいます。障害者となった父は、看護師だった性悪女のエンカルナと再婚。カルメンは使用人扱いで、虐め抜かれます。ビヤタとカルメンが接近するのを危惧したエンカルナは、ビヤタを殺害。カルメンも殺すよう使用人に命じますが、6人の小人の闘牛士たちに助けられます。

まずは良いところから。モノクロ画面はとてもメリハリがあり、闘牛師の出で立ち、ファッションから建物まで、とにかく美術が素晴らしい。容易に1920年のスペインに連れて行ってもらえます。サイレントなのでセリフのト書きは最小限。しかし役者さんたちが皆とても表情豊かで、喜怒哀楽から憎しみや憐憫の表現まで、とても上手く表現出来ているので、説明不足の感は全くなし。ややオーバーアクトなのが、良いのでしょう。

主要キャスト全てのキャラ立ちも素晴らしい。特に小人さんたちは描き分けが難しいはずですが、ちゃんと悪役やイケメン、愛深い人、その他など、役割分担がちゃんと出来ていて、びっくり。ちなみにCGではなく、本当の小人の方たちが演じています。でも何で6人なのかしら?7人じゃないのは、最後まで触れられていません。

ストーリーは白雪姫だけではなく、シンデレラもあり。カルメンの母亡き後の豊かな祖母との情愛、父への慕情、小人たちへの感謝もしっかり描けています。カルメンはチャーミングだし、悪女エンカルナはビッチな性悪女ですが、魔女ではなく人間で、禍々しい恐ろしさより、ユーモアにエロスも交えて描いているのが楽しいです。エンカルナを演じるマリベル・ベルドゥがスーパーモデルばりのスタイルの良さで、彼女の着こなすファッションは、そのまま雑誌の表紙になりそうなセンスの良さで、その方面も楽しめました。

こんなに素晴らしいのに、何故引っかかるかと言うと、広大なお屋敷には使用人がいっぱいで、カルメンがこの屋敷のご主人様の実の子だと知っているはずなのに、あんなに過酷な境遇に幼い子が身を置くのに、誰も手を差し伸べないのです。エンカルナは底意地の悪い女ですが、魔法が使えるわけじゃなく、子供や身障者の身では手強いでしょうが、それなりに知恵のある大人なら、カルメンを導いたり、陰で応援したり、いくらでも出来るはず。

ビヤタの友人も、「やっぱりカルメンだ」と、闘牛場で嬉しそうに彼女に近づきますが、ならどうして今まで放ったらかしだったの?祖母が生きている間は、色々橋渡ししていたでしょう?エンカルナは意地悪の割にはバカっぽく、隙がいっぱいの描き方です。あれでビヤタと近づけなかったのは、腑に落ちません。

そしてラスト。唖然としました。王子様、いるじゃないの?ダークファンタジー仕立てだからと言って、文盲や身体障害をそのまま悲劇にする必要はないんじゃないの?カルメンの涙に、リアルな現実を見せられて、やりきれなく哀しい気分になりました。

カルメンが文盲だったのは、学校に行かせて貰えなかったから。誰か周囲の大人が、字だけでも教えていたらと、やはりあのお屋敷の使用人たちに、猛然と腹が立ちました。カルメンが思春期になっても、屋敷を逃げ出さなかったのは、父が心配で傍にいたかったからでしょう。でもね、自分の境遇が劣悪だと認識するなら、父を救いたいなら、勉強するのよ。闘牛の技を磨く前に、情より前に、まず勉強して世の中の仕組みを知るのよ。それが自分とお父さんを救う道なの。やりきれないので、そういう教訓を残したいから、こういうラストにしたのだと、無理やり自分を納得させています。

私は哀しい境遇の子供を前に、大人が素通りしたり、あろうことか一緒に虐めると言うシチュエーションが大嫌いなので、素直に好きだとは言えませんでした。気にならない方には、何の問題もなく楽しめる作品ですので、お勧め作ではあります。


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