ケイケイの映画日記
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2013年04月04日(木) 「ボクたちの交換日記」




ウッチャンナンチャンのウッチャンこと、内村光良の脚本・監督作品。原作は構成作家の鈴木おさむ。手の内を知り尽くした世界が舞台だからでしょうか、人より少し長い青春時代を送った男子二人の哀歓が、とても素直に心に沁みる秀作です。ところどころ難も感じますが、それを差し引いても大好きな作品です。

甲本(小出恵介)と田中(伊藤淳史)の二人は、「房総スイマーズ」と言うお笑いコンビを組んで12年。気がつけば30歳です。売れない状況を打破すべく、甲本が考えたのが交換日記。最初は嫌がっていた田中ですが、次第に日記はページが重なり、ネタ係だった田中は、日記を元にネタを下ろす提案をします。

前半は二人の交換日記を独白すると言う形の中、二人の性格や日常、背景をしっかり描いています。お調子者のイケメンで大らかな甲本はツッコミ担当。几帳面で真面目、でも少し偏屈な田中はネタとボケを担当。しかしお笑いとは不思議なもので、笑いのセンスは田中の方があります。微妙にコンビの仲に影を落とすはずの事ですが、二人は高校の同級生でした。

二人は部活も同じ水泳部。ハンサムで人気者で部活でも一番の甲本が、田中のお笑いのセンスを見込んで、コンビを組もうと誘ったのです。「桐島」で描かれたように、校内のヒエラルキーでは、上位の甲本、下位の田中であったでしょう。憧れとまではいかなくても、田中は甲本の存在が眩しかったはず。その甲本が自分を認めて誘ってくれた過去は、田中にとって感謝と自信に繋がっていると感じます。

しかし今は、舞台とネタ合わせ以外は会話すらない彼ら。「ダウンタウン」は幼稚園からの幼馴染ですが、楽屋で取っ組み合いの大喧嘩して、すぐ舞台があったとか。何食わぬ顔で舞台を終えた時、あぁもう自分たちは親友ではなくなった。お笑いコンビになったのだと実感し、物凄く寂しかったと語っていました。それを言ったのが浜田か松本か、それすら覚えていない、ずっと昔の記述です。友人ですらなく、ただの同級生の二人ですから、売れない現状と共に、お笑いコンビの難しい間柄を、上手く表現していた思います。

辣腕ディレクター川野(佐々木蔵之助)から、ピンで構成作家にならないか?の誘いを、何故断ったのかと田中に聞いた時、「甲本と二人でやりたかったから」と言う言葉に、小躍りする甲本がいじらしい。甲本が追いかければ田中が逃げ、またその逆もあり。交換日記の中で、お互いの短所をあげつらう二人ですが、甲本の致命的な失敗は、田中は決して責めず庇います。友情でもなく男女の愛でもなく、家族でもない。まるで夫婦のようだと思いました。コンビとしての相性は良くないはず。だから売れない。それでも決してコンビ別れしない二人。

昔Wヤング(今は二代目)と言う漫才コンビいて、しかし人気絶頂の時、中田治雄が借金を苦に自殺。その時相方の平川幸男が、「何で俺に相談してくれへんかったんや!嫁はんより長い付き合いやないか!」と、棺にすがり号泣する姿が、今でも記憶に鮮明です。これも昔、オール巨人阪神の阪神が、自身の不倫騒動で迷惑をかけたと、相方の巨人に謝罪を入れた際、礼儀作法や道徳にはうるさい巨人(その方面では怖い人で有名)が、「お前、子供欲しいと言うとったもんな(前妻とは子供が出来なかった)」と、許してくれたそう。

そう言った、売れる売れない、損得ではない、二人しか分らぬお笑いコンビの情と絆を、甲本と田中からもしっかり感じ取る事が出来ました。だからでしょうか、若くもないのに、男のくせにこの二人は、実によく泣くのです。でもそれがみっともないとも、可哀想だとも思わない。泣きなさい、今は思い切り泣きなさいと、私も一緒に泣いてしまうのです。今は辛くとも、先のある涙だと感じたから。

満開の桜の下でのコントで終わるのかと思いきや、それからが少々長いです。この辺は端折って、すぐまた、交換日記に繋げた方が良かったかも。私はずっと今の様子だと思っていたのに、後から設定が17〜8年前とわかって、この辺の時代考証は甘いと感じます。時の流れもわかりづらく、17年後、登場人物に容姿の変化がほとんど感じられないのも変です。

甲本の娘に言わせた的外れのセリフには、私もカチンときました。その後の田中の怒りを見て、そういう伏線だったのかと、納得。いやウッチャン、お見逸れしました。原作にもあったのかな?二人共糟糠の恋人(長澤まさみ・木村文乃)と、ちゃんと結婚していて、この辺二人の人柄の良さが出ています。長澤まさみはまるで菩薩様のようで、ちょっと出来すぎじゃないの?とも思いましたが、キャバクラ勤めで、男を見る目が出来ていたんですね、きっと。うん、そういう事にしよう。才能がない悲哀を味わった甲本ですが、けじめの付け方の全うな男らしさは、彼には平凡という「勲章」が似合うのだとも感じました。

主役二人は、伊藤淳史は演技巧者として認識していましたが、初めて小出恵介が上手いと感心しました。たくさん彼の作品は観ているのですが、どれもそれなりで、彼自身のキャラ優先に感じましたが、今回は私的には100点上げてもいいくらい、甲本の人柄や苦悩が、直球でこちらの届いてきました。きっと二人にとって代表作になると思います。

お笑いとコンビとして歩いた二人は、その後違う人生を歩みますが、それぞれが天分にあった人生を、精一杯歩んだのだなと感じ、最後まで涙が出ます。お笑いの裏側の詳細な描写は、表側から伺い知れぬ厳しさで、その辺も興味深く観られます。お笑い芸人とは、笑われる人ではなく、笑わせる人が本物なのだなと痛感しました。前半はクスクス笑えるコメディ調で、後半は滂沱の涙の作品。でもとても爽やかです。お金を使わなくっても、日本のサブカルを題材に、こんなに見事に映画に出来るんですよね。堂々の青春映画でした。


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