ケイケイの映画日記
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2012年08月15日(水) 「桐島、部活やめるってよ」




男女共学の高校の数日を描いた群像劇。いや面白かったです。ほんの端役のキャラまで活き活き描いて、今も昔も、悩める子は悩み、空っぽの子はそれなりにと、私の高校時代と大差ないんだなと、懐かしく思い出しました。私は中学から短大まで女子校だったので、それがとっても残念に思えた作品。監督は吉田大八。

とある高校の金曜日の放課後。いつものように宏樹(東出昌広)は、友人の帰宅部生徒、竜汰と知弘と共に親友の桐島を待っていました。桐島はイケメンで成績優秀、バレーボール部のキャプテン。その桐島が部活を辞めると言う噂が広がります。宏樹たちや、彼女で校内一の美女梨沙(山本美月)にも知らされていなく、梨沙のグループの女子、紗奈(松岡茉優)実果(清水くるみ)かすみ(橋本愛)たちにも衝撃を与えます。一方彼らとは関係ない映画部部長の前田(神木龍之介)や、宏樹に片思いしている吹奏楽部部長の沢島(大後寿々花)たちにも、波紋を広げていきます。

金曜日から始まり数日間が、各々の視線から描かれます。だから客観的ではなく、全部主観。華やかな子や地味な子ちゃらい子、みんな自分の青春の主役は、自分だもんね。でもそれは私の青春が過ぎ去りし日々であるからわかるのであって、イケメンでも美女でもなく、体育会系部活でもない善良な子達が、控えめな日常を送っている姿が切ないです。

上記以外にもたくさん生徒が出てきますが、これが少しの登場時間で、見事にこの子が何を感じて何を悩んで何を迷っているか、ちゃんと描けている。みんなみんな普通の生徒です。これが一番感心しました。一言に青春と言っても、爽やかさ瑞々しさだけじゃない。計算高さやドロドロした女心まで、全部を「若々しく」描けているところも、本当に感心します。

私は女子校だったので、梨沙たち四人組の気持ちがすごくわかりました。一年生の時からの仲良しグループだったのでしょうね。それが二年生になってクラスも変わり、梨沙&紗奈と実果&かすみに、微妙に離れています。この頃の一年間って、女の子には大きいもの。実果はバトミントンで伸び悩み、男とお洒落以外は眼中になさそうな梨沙&紗奈を見下しながら、コンプレックスも感じています。真面目に人生を考えていそうな子です。私は出てきた子の中で、この子が一番好きです。その実果に心の拠り所にされながら、全部を彼女に打ち明けないかすみ。落ち着いた美少女ながら、得たいの知れなさ加減が、女の怖さを感じます。梨沙と紗奈は似ているようで違います。

梨沙はプライド高く自分の美しさを充分理解しているし、立場も知っている。でも独りじゃ「勝ち組」としてまずいので、他の子と一緒にいるのでしょう。女のいやらしさの権化のような子が紗奈。女王様の梨沙の親友、イケメンの宏樹の彼女と言うのは、彼女の見栄をマックス満足させるものなのでしょうね。大事な人を選ぶ基準が見栄なのです。だから親友に見えないし(梨沙も思ってない)し、宏樹もキスしようが腕組んで歩こうが、一向に彼氏に見えない。紗奈もはしゃいでいますが、宏樹が好きなんじゃなくて、宏樹の彼女、梨沙の親友の自分が好きなんでしょうね。こういう子は、若い娘にはいっぱいいると思うぞ。

だから観客は健気な沢島さんに感情移入するのでしょう。紗奈ちゃんは逆引き立てかな?でも監督は残酷なのよね。チラッと沢島さんを見るだけで、一度も宏樹は彼女と話しません。席が前と後ろなのに。なので宏樹が窓の外を観ていると、沢島さんも窓に目を映すシーンが、後々になっても心に残るのでしょう。

前田君のキャラは、小説ではキネ旬を愛読し、岩井俊二のファンなのだとか。それが映画では映画秘宝を愛読し、ロメロのファンで大のゾンビ好きに変更になっています。これは大当りです。映画なんだから、絶対こっちでしょう!彼が出てくる度に、何を言ってくれるのか、ニヤニヤワクワクしました。屋上での、おずおずとした「謝れ」にも、いつもいつも下手に出ていた彼だったので、よく言った!と胸がすく思いでした。あれが言えるか言えないか、大げさに言えば前田君の人生を左右する出来事だったと思います。一大スペクタクルの屋上のゾンビシーンも、オタクの想像力の逞しさに、すんごくカタルシスを覚えました。

ラストの宏樹の涙には意表を突かれました。思えば彼は野球部を休部中、帰宅部のちゃらい連中とつるむも、最初から最後まで軽薄感のない子でした。野球バカのキャプテン(高橋周平)の存在も大きいのかも。「キャプテン、今度は・・・」と言いかけた時、今度の試合は出ますと、宏樹は言いたかったのだと思います。しかし純粋で鈍感、そして度量も大きいだろうキャプテンは、「応援でもいいから来いよ」と笑顔を向けます。宏樹が成りたかったのは、もしかしたらキャプテンじゃなかったのかなぁ。イケメンで優秀でスポーツ万能。だけど桐島を越えられない自分。何も考えず一心に野球に打ち込めるキャプテンが、眩しかったのかと思いました。

若い時は傷つき悩み葛藤すればいいんですよ。その先には、必ず喜びも楽しさもあります。人生は思い通りに行かないから面白い。私が息子たちにそう言えるのは、年を取った証拠です。でも私は言わずにはいられない。人生はね、思い通りに行かないから面白いのよ。思い通りの人生なんて、ちっとも楽しくないよと。登場した全ての子達に贈りたいです。


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