ケイケイの映画日記
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2012年09月13日(木) 「最強のふたり」




実話が元の身障者と介護者の作品と聞くと、愛と感動の物語と思うでしょ?ところがところがこの作品は、とにかく最初から最後まで爆笑の渦。場内笑いに包まれたままなのに、エンディングでは笑いながら涙が流れていました。愛すべき作品と言う点では、私の今年一番の作品です。監督はエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ。

大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、パラグライダーの事故で、首から下の四肢が麻痺状態に。日常の介護をしてもらう介護人を面接していたら、「不採用にしてくれ」と頼み込んできたのは黒人のドリス(オマール・シー)。三箇所から不採用になれば失業保険が出るのだと言うのです。ドリスに興味を持ったフィリップは、彼を採用することにします。以降下流と上流、二人の交歓が始まります。

描き方によっては、重厚にも描けるでしょうが、このお話、良い意味でとてもライトなのです。何人も逃げ出す重労働の介護者にドリスを選んだのは、フィリップにはほんの気まぐれだったのでしょう。フィリップの周りの女執事や秘書、看護師たちは、みんな善良な人たちです。恭しく粛々とした毎日は、返って彼に無聊の日々を送らせたのでしょう。それは自分が障害者だと、フィリップに思い知らせたはず。そんな日々に風欠を開けるべく、いたずら心が動いたのかもしれません。

案の定、ろくすっぽ介護を知らないドリスは、へまばかり。仕事に一生懸命でもなく、始めて見る重度障害の雇い主の体を、子供がするような人体実験までする始末。しかし刺激のなかった毎日に飽き飽きしていたフィリップには、どれも新鮮に映るのです。やがて教養と礼節(フィリップ)マリファナに夜遊び、そしてEW&F(ドリス)と、お互い手持ちの駒を交換しだします。

教養が邪魔をして理屈が先走るフィリップは本音を語りだし、身も蓋もなく自分をさらけ出していたドリスは、やがて礼儀と人の役に立つ喜びを学びます。フィリップの友人はドリスが前科者である事を忠告しますが、その時の答えは、「以前の彼は関係ない。今の彼が大切なのだ」と。それは事故の前と今とでは、違う人間になってしまった彼にとって、意味の深い言葉だったと思います。

割れ鍋に綴じ蓋のような、おもろい夫婦みたいなふたり。もう一度因縁のパラグライダーに、嫌がるドリスを連れて挑戦するフィリップは、「最強のふたり」で、もう一度生まれ変わった自分を確認したかったのかも知れません。

彼らには相性の良さを感じずにはいられません。それは「親のない子と、子のない親」であった事にも起因していると思いました。親や子と呼べる人もいますが、複雑な事情です。心の拠り所や居場所のない寂しさを、お互いに知らず知らずに感じ取っていたのかも。そこには富豪も貧乏人もない、根源的な人の寂寥を感じます。

冒頭のシーンは、夜の街を猛スピードで繰り出すふたりが映されます。その繰り返しがラスト近くに描かれれますが、まるで違った印象を観る者に与えます。そしてドリスが出した答えは、寂寥を埋める事でした。

ラストに実際の二人の映像が流れます。二人の関係がどうなったかは、お楽しみに。とにかく観ていてこんなに楽しかったのは、最近覚えがありません。そしてとにかく気持ちがいい。画像の二人の笑顔が、雄弁に物語っています。これはパラグライダー級かも?終わるまでにもう一度観たいです。


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