ケイケイの映画日記
目次過去未来


2012年03月29日(木) 「マリリン 7日間の恋」




ミシェル・ウィリアムズ素晴らしい!この演技で何故オスカーが取れなかったのかしら?確かにメリルも素晴らしかったけど、「サッチャー」は、メリルの力量からしたら、平均点+αくらい。しかしミシェルのマリリンは、容姿も全然違う自分のキャパにほとんどないはずの、稀代のセックスシンボルを演じて、本当にそっくり!外面がそっくりなだけではなく、マリリンの屈託のある内面を理解し、愛情を持って演じているのが手に取るようにわかり、そこにも感動しました。これぞ一世一代の名演技だと思うんだけどなぁ。映画に登場するコリン・クラークの回想録が原作で、作品的にもとても上品な出来栄えで、大変満足しました。監督はサイモン・カーティス。

世界中を虜にしているマリリン・モンロー(ミシェル・ウィリアムズ)。ローレンス・オリヴィエ(ケネス・ブラナー)が監督・出演する「王子と踊り子」に主演するため、三度目の夫アーサー・ミラー(ダグレイ・スコット)と共に、イギリスに招かれます。しかし素顔のマリリンは極度の情緒不安定で、撮影は遅々として進まず、制作側は困惑しオリヴィエは怒り心頭。助監督のコリン(エディ・レッドメイン)に、マリリン番を申し付け、彼女の行動を把握しようとします。

コリンは良家の子息ながら、本人の言うところ落ちこぼれ。しかし愛情には恵まれ、末っ子の利点を生かし、仕事は自分の好きな映画の世界へ焦点を定め、職を得るため猛烈に頑張ります。この様子は、コリンの育ちの良さから来る伸びやかさに感じられ、彼が好青年であると認識出来ます。

記者会見での当意即妙なマリリンの様子は、この作品でハリウッド映画への足がかりを掴みたいオリヴィエの心を大層満足させ、人妻であるマリリンへの邪心も膨らませるのですが、これ以降は、現場は彼女に振り回させられることに。

マリリンは気分の浮き沈みが激しく、安定剤が手放せません。大幅な遅刻はするは、セリフは覚えられない、監督の少しの言葉で傷つき全く仕事になりません。マリリンが精神病を患っていたことは、今では周知の事実ですが、当時はどうだったのかな?異常に自己評価の低い様子は、観ていてとても切ないのですが、これは相当イライラするぞ。しかし束の間、彼女が「マリリン・モンロー」になる時の輝きは眩しいほどで、全てを「なかったこと」にしてしまうのです。

天衣無縫にして天真爛漫、決して男性たちをたぶらかそうとしているわけでないのに、取り巻きの男性たちを、次々と虜にしていくマリリン。落ち込む時の捨てられた子猫のような様子も、守ってあげたくなるでしょう。それに「あのおっぱいとお尻」(プロデューサー談)。もう最強ですよ。とにかく私たちが聞いてきた「マリリン伝説」が、具体的に目の前に突き出されているのです。

彼女の病の原因は、子供の頃母と別れ(精神病院へ入院)、父はおらず、里親を転々とした事に起因しています。マリリン・モンローとしての賞賛は、ノーマ・ジーン・ベイカー(本名)が、生涯欲して止まない「愛」だと感じるのでしょう。だから彼女なりに、一生懸命マリリン・モンローになろうとする。マリリンがコリンに惹かれたのは、愛情豊かに育った青年であった事も理由の一つかも?。家庭に恵まれなかったマリリンが、ウィンザー城の人形の家に魅入る様子が切ないです。コリンに「あなたは帰る家があるの?」問う彼女。寄る辺のない身の上の彼女は、結婚にも憧れがあったでしょうが、その気質のため、結婚と離婚を繰り返します。彼女も可哀そうだし、逃げてしまう夫の気持ちにも理解出来る描き方です。

マリリンだけではなく、当時の映画界の様子も上手く挿入されており、内幕ものとしても楽しめます。撮影の風景、衣装の段取り、台本合せなど。演技の勉強をしていなかったマリリンは、当時リー・ストラスバーグに師事したこと、この作品の主役は、舞台ではオリヴィエの妻だったヴィヴィアン・リーが演じていたことなどが、さらりと挿入されていて、きちんと伝記になっているなと感じました。

舞台と映画での演技の違いや、老いがストレートに映るスクリーンへの恐怖も感じました。ブラナーの滑稽な厚化粧は、当時はちきれそうなマリリンの若さと対比させるため(30歳だけど)、わざとなのでしょう。

この作品はスキャンダラスな官能性を持つ作品ではなく、美しくて儚げなお話と感じるのは、マリリンとコリンがプラトニックだったから。いや本当はどうだかわかりませんよ。でも当時彼女はミラー夫人。一時でも愛した女性を、貶めんとする事を避けたのなら立派な事だし、本当にプラトニックだとして、あの若さで礼節をわきまえられたのなら、尚立派です。思い出は美化しがちなものですが、この作品のように品性を感じさせるのなら、大歓迎です。

しかし美しすぎて、ちと不満も。デイムの称号を賜るシビル・ソーンダイク(ジュディ・デンチ)が、器の大きさを感じさせる大女優と描くのは良いのですが、ヴィヴィアン・リー役がジュリア・オーモンドとは、小物過ぎやしませんか?ヴィヴィアンは礼節を重んじる中に、マリリンへの嫉妬も表現されていますが、彼女も当時絶賛精神病患者のはず。あんなに静静と接せられたのかしら?病気が原因でオリヴィエと別れています。(なので「彼は私を捨てないわ」のセリフが痛々しい)リーの造形には、ちょっと疑問があります。リーの部分は、省いても良かったかな?

エディは、繊細な若いジェントルマンを演じて、すこぶる良かったです。日本じゃブレイク未満ですが、私はずっと期待している俳優なので、これでブレイクしたらいいな。第二のオリヴィエと言われているブラナーがオリヴィエ役なのも、楽屋落ち的で面白い。エマ・ワトソンは、「ハリポタ」以外で初めての映画でしょうか?彼女が演じるには等身大の女性でしたが、軽い役どころでした。これは役の重さより、ブラナーやデンチと言う、英国映画界の重鎮と共演させることに意義があると、周りが踏んだのかな?出演順が、ラストのデンチの一つ前でびっくりでした。

と言う風に、ミシェルの演技以外にも見どころがたくさん!マリリンへの敬意と愛がいっぱい詰まった作品です。マリリンを知らないお若い方から映画好きさんまで、幅広くお薦めします。


ケイケイ |MAILHomePage